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 震えるピノを目の前に、彼は落ち着いた様子で優雅に語った。 「ああ、そうだ。キミに特別に教えてあげよう。何故キミがあの青年の手に渡ったかを…――」  オーランドが瞳を光らせて怪しく微笑むと、ピノはゾッと寒気を感じた。 「――さっきも言ったとおり、きみは私の愛玩ドールになる予定だった。しかし、それには本当か偽り物かを私は見極める必要があった。そこでアーバンは私に話を持ちかけた。彼に人形を試すことを。さきに愛玩ドールをみつけたのはアーバンだった。それを私は彼から買い譲ったのだ。もし本物だったら愛玩ドールは姿を変える。しかし偽りだったら期待をした時の絶望感は計り知れない。それに私は愛玩ドールを見つけて行く中で幾度なく期待をして裏切られ続けた。だから初めから期待を持たない事にした。そこで私は、(ローゼフ)を利用して本物の愛玩ドールかを確かめてみたんだ」  ピノはオーランドが聞かされた事実に震撼すると、全身が震え上がり恐怖を感じた。 「アーバンは彼にキミを託した。そして、キミは彼の手でこの世に生きた人形として生まれたのだ。私は、その話を彼から聞いて確信したのだ。キミこそが私が長年探し求めていた愛玩ドールだという事を……!」 「ッ…――!?」  オーランドのその話しに酷く動揺すると、ピノは彼を前に衝撃を受けた。 「彼には悪いがキミを返してもらう。キミのマスターは彼ではなく、この私だ! 彼は一時の夢を見ていたんだよ。寂しくて一人ぼっちの孤独な彼に私はキミを貸したまでだ。キミのおかげて、彼は孤独から立ち直ったそうではないか。キミは本当によくやったよ。彼は両親を亡くしてから、ずっと塞いでいたからね。キミに出会えて彼は救われた。だから彼のことはもう忘れて、今度は私を救ってはくれないか――?」  オーランドの一方的な思いにピノは恐怖を感じると、頑なに拒んだ。 「ローゼフのことを悪く言うな!! おじさんなんて嫌いだ! 大っ嫌い! ローゼフたすけてぇっ!!」  ピノは言い返すと仕切りにローゼフの名前を呼んで助けを求めた。しかし、いくら呼んでも、彼は来なかった。ピノが泣き喚くとオーランドはカッとなって平手打ちで叩いた。 『うるさい、黙れぇ!!』 「キャッ…!」 「お前のマスターは私だ! 私の前であいつの名前を呼ぶな!」  彼は感情を剥き出すとピノの顔をぶって怒鳴り声をあげた。顔を叩かれて頬を赤くかせると、ガタガタと怯えて泣き出した。 「ああ、そうだ。手に入れて早々になんだが、キミは私が望んでいる姿のドールではない。私の意味わかるかな?」  オーランドは不気味な顔でニコリと笑うと、ピノは耳を塞いで震えた。 「――つまりキミには死んでもらう。死んで新しく、私の愛玩ドールとして生まれ変わるのだ。何も一度や二度でもないだろ? キミは過去に何回生まれ変わり何回死んだのだ? その度に幾度となく形を変えたのだ? 私は知っているんだ。愛玩ドールの運命とその悲劇な」 「えっ…?」 「愛し愛されために生まれてきたのに、いざとなると主人との別れは辛くなるな。キミは知っているが心の底に悲しい記憶を閉じ込めているのだ。だから今回も辛いと思うが、それもやがて忘れて記憶の深淵の底に沈むだろう。今キミが愛している彼の顔も、やがては忘れて思い出せなくなる。それが愛玩ドールの悲しきさだめ。運命とはまさに残酷だな。私が何もしないでただ愛玩ドールを長年に渡って探してたと思うか?」  突然、愛玩ドールの隠された悲しき秘密を暴かれるとピノは言葉にならない声で泣き続けた。
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