閉ざされた過去

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「そうだ。全員消えればいい。いなくなればいいんだ。僕を影で笑っていた奴も。僕を馬鹿にしていた奴も。心配するフリして本当は楽しんでいた奴も。僕の悪口をみんなに言ってた奴も、みんなみんな消えればいい……! そして誰もいなくなって、僕は初めて心から穏やかになれるんだ…! そうだ。だから僕は、みんなから遠ざかるんだ。はじめから誰とも会わなければ傷つかずにすむから…――!」  心を閉ざしてゆく自分の姿を垣間見るとローゼフは不意に呟いた。 「ああ、そうだ。ここは私が作り上げた空っぽの世界だ。誰もいない私だけの空っぽの世界…――」  そう呟くと辺りを見渡した。 すると、周りは彼の部屋に形をかえた。 「私は父と母を亡くして、ずっと孤独だった。でも、その孤独も自分が作り上げたんだ。私はあの時、まだ幼かった。そして信じれる者は誰もいなかった……。だから私は心に壁を作って周りから遠ざかったのだ。信じることも傷つくことも怖かったからだ。ピノが私の所に来てからは少しは自分の世界が変わったようにみえた。でも、何も変わらなかった。ピノは私のもとから消えた。やはり私は孤独なままだった…――」  暗闇の中でポツリと呟くと、悲しげな表情でそこに佇んだ。すると後ろからピノの声が聞こえてきた。 「ローゼフ……」 「ああ、ピノ……! ここにいたのか、探したぞ! もうどこにも行くな!」  ローゼフは抱き締めようと咄嗟に両手を伸ばした。すると突然、ピノは泡のように弾けた。 「あ、あぁ……! ピノ…! ピノ…! ピノォ――ッ!!」  悲痛な声でピノの名前を呼んで叫んだ。すると次の瞬間、ベッドの上でパッと目覚めた。彼は夢に魘されて起きると、パーカスが彼の横に付き添っていた。 「ああ、ローゼフ様。お気づきになられましたかな?」 「パーカス…。私は一体…――?」  ローゼフはベッドの上で目を覚ますと、辺りを見渡した。 「ローゼフ様、貴方様は少し錯乱なさっただけです」 「そうか、私としたことが……。それよりピノは? ピノはどうしたパーカス…――?」  彼の質問にパーカスは首を横に振って、表情を曇らせた。 「ローゼフ様。残念ですがピノはまだ見つかっておりません……」  その言葉に彼は途端にベッドから起き上がった。 「そうだ、こうしてる場合ではない…! 早くピノを探さなくては…――!」 「ローゼフ様、いきなり起き上がられたら大変です! 少しお休みを……!」 「離せパーカス! あの子は私のドールだ! きっと今頃どこかで泣いてるかも知れないだろ!?」 「そのお身体では無理でございます! 貴方様はあれから丸一日の間、ベッドで寝込んでいたのですよ!?」 「そ、それは本当か……?」 「ええ、寝込んでいる間。貴方様は酷く魘されていました。一体どんな夢を見たのでしょうか? よければ私に教えて下さい」  パーカスがそう話すとローゼフは重い口を開いた。 「とても嫌な夢だった…。真っ暗な淵でさ迷っている気分だった。そして、悪夢のような夢の中で私は自分を見ているのだ。それだけじゃない。父と母と私の夢も見た。あと、葬儀の夢も……。もうあんな辛い夢は沢山だ…――!」  そう言ってパーカスに見た夢のことを打ち明けると小刻みに震えた。そして、悲しそうな顔で思い詰めた。パーカスは右手に持っているものを彼に見せた。 「こんな状況で貴方様に見せるのもお辛いですが見てくださいローゼフ様。これはピノの服の切れ端です。貴方様がお休みになられている間、屋敷の庭もくまなく探しました。そうしたら今は使われていない秘密の通り道にこれが小枝に引っ掛かっていたのです」  パーカスがそれをみせるとローゼフは表情が一気に凍りついた。 「こっ、これは間違いない……! それはピノが着ていた服の切れ端だ…――!」  服の切れ端を見た途端、肩を震わせて怒りに満ちた。 「今は使われていないあの小道をピノが1人で通って行ったとは私は考えられません。それにあの小道を知っているのはここでは僅かな人間しかおりません。やはり誰かがピノをこの屋敷から拐ったとしか…――」  パーカスのその仮説に対して彼は頷いた。 「ああ、そのとおりだ……! ピノはこの屋敷から、何者かに連れ拐われたのだっ!!」 「おお、やはり誰かがピノを…――!?」  その言葉に衝撃を受けると困惑した。 「誰がピノを拐ったかは検討がつく……!」 「そ、それは誰でしょうか……?」 「オーランド公爵だ!」 「なっ、なんと……!? オーランド公爵様がピノをお拐いに…――!?」  ローゼフはピノの服の切れ端を握ると、今まで感じたこともないような激しい怒りを込み上げた。
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