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決闘
――闇夜に不気味な満月が浮かぶ頃、ローゼフは街の中心部にある古い時計台の塔に向かった。彼は時計台につくと気を引き締めて塔の上にあがった。どこまでも続く螺旋階段は死への階段のように感じた。
ローゼフはピノを取り返す為なら彼と戦う事も意図わなかった。そして、塔の最上階に上ると大きな満月が不気味に輝いているのが見えた。時計台の塔の上は足場が不安定で、何より風が横から吹いていた。
少しでも動こうとすれば、足を滑らせて上から下に転落してしまいそうだった。上から見下ろした街並みは小さく街にはいくつも明かりが灯っていた。まるでその光景は、夜の一面に広がる宝石箱のようだった。彼は意を決して、そこから大きな声で話かけた。
「来たぞオーランド、今すぐ私のピノを返せ!!」
ローゼフが大きな声で話しかけると、暗闇から声が聞こえてきた。
「ゼフ…ローゼフ…た、助けて……」
ピノの声に彼はハッとなると辺りを見渡した。すると、時計台の塔にあった柱の隅にピノがロープで縛られていた。
「なんてことを…! ピノ、今すぐ行くぞ…――!」
彼は慌ててピノに駆け寄ると、柱にくくりつけられていたロープをほどいて助けた。ロープをほどくと、ピノはぐったりして意識も朦朧としていた。そして、顔には殴られた痕があった。変わり果てたピノの姿にローゼフは彼に対して激しい怒りを燃やした。
「オーランドめ…! よくもピノを…! 私のピノを…――! 許さん、絶対に許さんぞっ!!」
彼は寒さで震えているピノを抱き締めると、優しく声をかけた。
「もう私がきたからにはお前には手出しはさせない。さあ、一緒に帰ろう…――」
「ローゼフ黙ってお屋敷に出て行ってごめんなさい。ボク、ローゼフがあの人の所に行くのが嫌だったの。だからボク、ローゼフに会いに行こうとしたの……。そうしたらアーバンおじさんが…――! うっうっ…ごめんなさぁい…! わあぁああああん!!」
ピノは泣きじゃくると、彼の腕の中で涙を流して謝った。
「もういい、お前のせいではない…! 私が悪かったのだ…! お前を心配させてすまなかった…――!」
「ローゼフ…お願いボクを捨てないで…! ボクはローゼフの愛玩ドールでいたいんだ! ローゼフじゃなきゃボクはダメなんだ! ローゼフが好きだから、大好きだから…! お願いローゼフ、ボクを離さないで…――!」
ピノは小さく震えると、勇気をしぼって彼に想いを伝えた。ローゼフはピノを抱き締めると優しく微笑んだ。
「ああ、当たり前だ! お前は私のすべてだ! そう気づかせてくれたのはお前だ…! お前がいなければ私は生きていけない! 愛してるピノ!」
「ローゼフ、ボクも…――」
2人は恋人のように抱き締めあうと、互いに強く惹かれあった。
「さあ、帰ろう。帰って一緒に温かいココアを飲もう」
「うん…! ボクも帰りたい、あのお家に…――!」
「ああ、もちろんだとも…! パーカスもお前の事を心配しているぞ?」
「そうだね、ローゼフ……」
ピノはニコリと微笑んだ。その笑顔が彼にとっては何よりの宝物だった。ピノを両腕で抱きかかえると、そこから出口に向かおうとした。すると近くで拍手が鳴った。オーランドは拍手をしながら堂々と2人の前に現れた。
「素晴らしい――! まるで舞台劇場をみているようだったよ、ローゼフ君!」
オーランドは優雅な拍手をすると物陰から現れた。彼の姿をみるなり、ローゼフは怒りを爆発させた。
「オーランドォッ! よくも私の大事なピノを、お前だけは絶対に許さないぞっ!!」
「フッ、見事な傷の舐めあいに敬意を払いたい気分だ。よく来たなローゼフ伯爵、本当にノコノコ来るとは君も随分とお人好しな性格のようだ。きみにとってその子がよほど大事に見える」
「ああ、そうだとも! ピノは私のすべてだ!」
ローゼフは強気な姿勢で彼に言い返した。
「違うな、違うなローゼフ君。きみはその子を自分の物だと勘違いしている――」
「何……!?」
「その子はきみのドールじゃない。私のドールだ」
オーランドのその言葉に自分の耳を疑った。
「何を言っている貴様は……!?」
「君は賢いのになかなか気づくのが遅いようだ。その子が何故、自分のもとに来たのかを考えた事はないのかね? ああ、まさか骨董品収集で簡単に愛玩ドールが手に入れられると思ったか?」
「なっ、何…!?」
「バカめ! そんな簡単に容易く手に入るくらいなら私はとっくにお前よりも先に愛玩ドールを見つけて、今頃とっくに幸せになっているさ…! なんの苦労もしないで手に入れた癖に付け上がるな――!」
彼はそう言い放つと、コートに隠していた銃を取り出した。
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