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「愛玩ドール……。興味深いな」
彼は僅かに興味を抱くと不意に人形を手に持った。
「ローゼフ伯爵、これは買いに間違いありません! 滅多に手に入らないような幻の人形なんですよ!?」
商人はそう言って話すと、彼に買うように進めた。
「確かに興味深いがまだ買うとは決まっていない! ましてや生きてて、人形の癖に、人間の愛を欲しがるなんて気味が悪いだけだ……!」
ローゼフはそう言い返すと、手に持っていたビスクドールを手荒く鞄の中に戻した。
「――では、お買いにはなられないのですね?」
「なに……?」
「この機会を逃したら、もう二度とこの人形とは巡り会うことはありませんがよろしいですね?」
商人の何気ないその言葉に、彼は少し迷った。
「わたし以外の他に買い手がつくとでも言いたいのか?」
「ローゼフ様この人形は幻の人形です。愛玩ドールを探して欲しがっている人はこの世界中に沢山います。貴方様は私の一番のお客様です。だから最初にこれを貴方様に見せたかったのです。――ですが、貴方様がこの人形をいらないと仰るのであれば他の方に人形を売りたいと思います」
その言葉に彼は心が揺らぐと一言告げた。
「フン。お前がそこまで言うのなら買ってやっても構わないぞ? 気味が悪い人形だが、仕方ないから私のコレクションの1つに加えてやる。それに私には莫大な富みと財産がある。私に買えない物などない、そうだろ?」
彼は優雅にそう話すと人形を買う意思を伝えた。
「ありがとうございます……!」
その言葉に商人は表情が急に明るくなった。
「やはり貴方様は、私の一番のお客様です…――! では、商談成立でよろしいですか?」
「イチイチ面倒くさい奴だ、商談は成立したんだ! 早くいくらかを言え!」
商人はそう言われると自分の胸ポケットにしまってある小切手を直ぐに手渡した。ローゼフは小切手に言われた額をインクで記入すると、鼻で笑ってそれを彼に手渡した。
「高くついた買い物だが、私にとっては安い買い物だった。さあ、用は済んだら早く帰れ!」
彼はそう言って話すと、商人を自分の部屋から閉め出した。
「ローゼフ伯爵、私の話はまだ終わっていません! その人形は今のままでは、ただの人形です! 人形に魂を宿らすには…――!」
彼が廊下で騒いでいると執事が直ぐに駆けつけた。
「さあさあ、用はもう済んだ! 早く帰りたまえ!」
執事と使用人達は商人を取り押さえると屋敷の外に彼を放り出した。部屋で一人きりになった彼は溜め息をつくと椅子に座って腰を下ろした。テーブルの上にある青い鞄をジッと見ると不意に中を開けた。そして手に取ると不意に呟いた。
「愛玩ドール、愛を欲しがる人形か…――」
ローゼフは手に持った人形を興味深い表情で眺めるとフと我に返った。
「ふん、バカらしい…! 第一、この人形には表情もなければ髪さえもない。それに何も身につけてない。まるで作りかけの人形みたいだ。そんな人形を見て、どうやって愛着が沸くと言うのだ…――!?」
そう言って彼は独り言を呟くと、手に取った人形を再び鞄の中へ戻した。そして、その日は早い時間に就寝した。
――翌日、彼は再び鞄から人形を取り出して半信半疑で話かけてみた。そして、その次の日も人形に話かけた。でもいくら話しかけても、人形は返事をすることもなく黙ったままだった。彼は呆れながらもそれでも人形に話かけ続けた。そして、たまに庭に人形を抱っこしたまま出歩いたりもした。そんな光景は使用人や執事にも目撃された。しかし、そんな彼の奇妙な行動を目にしても周りは誰も言えなかった。そんな日々が続いたある日、再び商人が屋敷に現れた。
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