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はじめは彼を酷く憎んでいたが、それが愛ゆえに狂気へと走ってしまった彼の想いだと知ると、ローゼフは同情した。
「いいえ、もういいのです……。貴方の愛は他の誰よりも深く、彼女は貴方に心から愛されて幸せなドールだったと思います…――」
ローゼフはそう言って話すと彼の手をそっと握った。もうそこには憎しみはなかった。ただ、哀れな男の最期の死をみとるように、寄り添って優しく話しかけた。
「はぁ…はぁ…きみは本当に優しいな…。さすがマリアンヌ様の子供だ。きみのその慈愛はまさに母親譲りだよ……」
「オーランド…――」
「ああ、メアリー…私の…愛しい…――」
彼は最後に少女の名前を呼ぶと、涙を流して息をひきとった。ローゼフは突然の悲しみに襲われると、彼の開いていた瞼を右手で静かに閉じた。
「チッ、はずしたか……! どこまでも運の強いお方だ! だが、次は外しませんよ!?」
アーバンは冷酷な顔でそう話すと彼に向かって再び銃口を向けた。 ピノは銃を持っている彼の手に噛みつくと、ローゼフに向かって叫んだ。
『ローゼフ逃げてぇっ!!』
手を噛まれるとカッとなって叩いて振り払った。ピノが地面に倒れるなり、アーバンは鬼の形相で頭に銃を突きつけた。
「人形の癖につけあがるなよっ!!」
アーバンは銃口をピノの頭に向けると、そこで引き金をひこうとした。
『ローゼフーーッ!!』
ピノは泣き叫ぶと彼の名前を呼んだ。
「そこまでだアーバン!」
ローゼフはステッキを片手に持つと、それを彼に向けた。
「なんだそれは!? それで私を殺せるとおもうのか!?」
「ああ、できるさ! 私を見くびるなよ!!」
「何っ!?」
彼は強気な口調で言い返すと持っているステッキでアーバンを撃ち抜いた。乾いた銃声が時計台の上に置かれている鐘と共に鳴り響いた。それは、終焉を描いたような、鮮やかなフィナーレだった――。
「なっ、なに…!? ば、ばかな……!」
銃弾はアーバンの心臓を貫いていた。
「何故わたしが…! ばかな…――!?」
彼は地面に倒れると驚いた表情をしながら呆然となった。
死と言う現実を受け入れられない彼に、ローゼフは冷めた眼差しで話した。
「ああ、いいだろう。欲望にとりつかれた哀れな貴様に教えてやる。これはステッキに見せかけた仕込み銃だ。まさかこんな時にこれが役に立つとはな、私がただ骨董品を集めていたと思うなよ」
その言葉にアーバンは大きな衝撃を受けた。
「それにこれはお前が昔、私に売った物だ!! そんなことも忘れたのかバカめ…――!」
「クッ……! ただの小僧と見くびっていた私が甘かった…――!」
アーバンはそのことに気がつくと倒れた地面の上で言葉を失った。ピノは泣きながらローゼフのもとに走り出すと、彼に向かって飛びついた。
「ローゼフ…――!」
「ああ、ピノ! もうお前を離さないぞ!!」
彼は震える両手でピノを抱き締めると自分の腕の中にギュッと閉じ込めた。ピノはローゼフの腕の中で安心すると、そこで泣きながら話しかけた。
「ローゼフ、ボクもう離れないよ…! いっぱい大好き……!」
「ピノ。ああ、私もお前を…――」
彼は優しく微笑むとピノの小さな頭を撫でた。すると突然、ピノは目の前で急に顔色を変えた。それはまるで鮮やかに咲く薔薇の花びらがやがて地面に散ってしまうように終わりは前触れもなく訪れた――。
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