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窓辺に垂れ下がっている白いカーテンが、風で小さく揺られめいていた。ベッドの脇に置いてあった花瓶には、白い百合の花が飾られていた。ローゼフは霞んだ瞳を開くと傍に誰かが立っているのが見えた。顔はハッキリと見えなかったが、彼はその姿が誰か直ぐにわかった。金髪に長い髪の女性が優しそうな顔で、彼に微笑むのが見えた。長い髪の女性が彼の傍に近づくとそっと自分の頭に触れたのを感じた。ローゼフはその女性に向かって声をかけた。
「母上。母上なのですね……?」
長い髪の女性は彼の質問には答えずに、風に揺られてはためいているカーテンの奥へ姿を消した。
「待って下さい……! 私はまだ貴女に…――!」
彼は咄嗟に手を伸ばすと声をあげた。するとカーテンの奥から小さな人影が見えた。
「ピノ……!?」
名前を呼ぶと再びそこで目が覚めた。 視界には天井が広がった。
「ここは……?」
ベッドの上で呟くと、傍にいたパーカスが声をかけてきた。
「お目覚めですかな、ローゼフ様?」
「パーカス……?」
ローゼフはボンヤリとしたまま、彼の方に目を向けた。パーカスは読んでいる本をパタンと閉じると椅子から立ち上がって部屋のカーテンを開いて窓を開けた。
「私は何故ここにいるのだ……!? 私はあの時、時計台の塔の上にいたはずだ……!」
突然の事にローゼフは驚いたような表情で頭を抱え込んだ。
「そ、そうだ……! パーカス、ピノはどこだ!? ピノはどこに……!?」
「ピノですか? ピノならそこに居ますよ?」
パーカスは不思議そうな顔で彼に答えると指を指した。ローゼフは急いで体を起こすと、おそるおそる横を振り向いた。振り向くとそこにはピノがベッドの脇に立ってローゼフの顔をジッと見つめていた。
「ピ、ピノ!?」
その瞬間、ローゼフは信じられない光景に衝撃を受けて声を出した。
「っ、ひっ……ローゼフ……ひぐっ……!」
「ピノ……!?」
「うっ……うっ……ひっく……! うわあぁあああああん! ローゼフが目を覚ましたー!」
ピノは大きな声を出して泣くと、そのまま彼に飛びついて泣きじゃくった。
「お前は確かあの時、アーバンの剣に刺されて……!」
ローゼフが驚いた様子で尋ねると、ピノは頷いて答えた。
「そうだよ……。ボクあの時、死んじゃったの。でもね、暗闇の中でさ迷っていたら光の中からローゼフの声が聞こえてきたんだ……。それでね、光の方に向かって夢中で走って行ったら目覚めたんだ――」
泣きながらその事を話すと、ローゼフはホッとした顔で胸を撫で下ろした。
「そうか……やはりあの声は真実を教えてくれたのか」
「真実? 真実ってなぁに?」
ピノはキョトンとした顔で首を傾げると彼に聞き返した。
「私の愛が真実だったらお前が目覚めると声が教えてくれたのだ」
「し、真実……!?」
「ああ……」
「ローゼフの愛がボクを……!?」
彼の口からその話を聞いた途端に、顔が真っ赤になって照れだした。
「何でだろう、なんだか凄く嬉しい!」
「ピノ?」
「エヘヘー! ローゼフはボクが大好きなんだね!?」
ピノは明るい笑顔でニコリと笑うと彼に無邪気になついてきた。ローゼフは優しく微笑むとピノの頭を撫でた。
「――ああ、そうだとも。私もお前が誰よりも大好きだ…――!」
「ローゼフ……!」
彼の嘘も偽りもない真っ直ぐな愛の言葉にピノは感動すると、2人は言葉を交わさずにジっと見つめあった。パーカスは2人の目には見えない強い絆を前に、ちょっと困った顔をすると咳払いをした。
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