待っててね

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『今駅についたとこ。もうすぐ帰る』  夫からのメッセージ。私はテーブルにスマートフォンを置いた。玉ねぎ、にんじん、じゃがいもの下ごしらえはばっちり。牛肉もさっき、冷蔵庫から出した。今から炒めて煮込んだら、夫が帰ってきてお風呂から出るころには美味しいカレーができるはず。今日は、私と夫の結婚記念日。この特別なカレーで、私は夫を出迎えるの。  夫と私は1年半前にコンパで知り合った。はっきり言って、あんな男全然好みじゃなかった。本当は夫の左隣に座っていたフットサルの彼のほうがよかったんだけど、こっちのメンバーのアサコに取られちゃったのよね。だから、なんとなくキープしておいた夫と連絡を取って付き合い始めたの。まあ、夫も悪くはなかったのよ。映画の趣味も同じだったし、食べ物の好みも似ていた。だからきっと、この人とならうまくやっていけると思っていたわ。  でも、やっぱり所詮はキープね。すぐ飽きちゃった。それに、2、3か月くらい前から夫は残業が増えて全然帰ってこなくなっちゃったし。でもね。そのおかげでいいこともあったの。あの本命だったフットサルの彼。結局アサコとはうまくいかなかったみたいで、最近急に連絡してきたの。もちろん、私は夫に内緒で彼に会いに行ったわ。それ以来、もともと飽きていた夫がますますかすんで見えた。ああ、もうあんな夫なんかと別れて、彼と一緒になりたい。そこで思いついたのがこの計画。いつも帰りが遅く、ろくに私のご飯を食べなかった夫が「結婚記念日には、君のカレーを食べたい」と言ったわ。残念ながら、そんな夫の言葉はちっとも私に響かなかった。響かなかったばかりか、苛立ちすら覚えたわ。あなたの帰りが早いと、私は彼に会いに行けないのよ。だから私、夫を消してやろうと思うの。このカレーに特別の隠し味。ああ、もうすぐ夫が帰ってくる。この特別なカレーで、あなたを出迎えてあげるわ。結婚してから初めて思った。あなた、早く帰ってきてね。  僕は駅に着くとすぐ妻にメッセージを送った。駅前のケーキ屋で妻の一番好きなケーキを買うと、そのまままっすぐ家に向かった。このとっておきのケーキは結婚記念日の今日、妻に食べさせてやるのさ。まあ、その前にちょっとだけ細工はするけどね。  合コンで妻と知り合って1年半。正直、あんな女は好きじゃなかった。僕は妻の友人のアサコを狙っていたんだ。しかしアサコは、フットサルしか能のない馬鹿に取られてしまった。だから仕方なく、なんとなくキープしておいた妻と一緒になった。しかしやはりあの女はだめだ。顔も好みじゃないし、一緒にいてもつまらない。ああ、このまま俺の人生は終わっちまうのか――。そんなとき、フットサル馬鹿と別れたと言って、あのアサコが連絡をよこしてきた。やっと僕に訪れたこのチャンスを逃す手はない。だから僕は今日、妻を消そうと思う。そう、このケーキに細工をしてね。ああ、早く家に帰りたい。早く妻に会いたい。こんなことを思ったのは、結婚してから今日が初めてだ。
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