ハイダウェイまであと少し

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 たった数時間の距離。改札を抜けた身体にかかった少し蒸せた風が澄んで思えたのは、標高のせいか壮真(そうま)自身の気持ちのせいか。昨日までの雨で空気が洗われたからかもしれない。息を吸い込むといつもにはない匂いが混ざって、硫黄だろうかと壮真は鼻を動かした。  電車から降りた数少ない同乗者たちは等しく複数人で、めいめいに画面を覗き込んだり温泉街のパンフレットを眺めたり楽しそうにしている。平日の三時過ぎなど壮真と同じように一人身がいてもよさそうなものだったが、これは予想外だった。  そもそもワイシャツにスラックスと、一目で仕事着と分かる格好で来ておいて疎外感も何もない。会社からの最寄駅に置いてきた車でネクタイを外した効果は半減して、ありもしない手持ち無沙汰に壮真はボストンバッグを持ち直した。  正面と左側を陣取った広い一本道はいかにも観光地といった雰囲気を漂わせ、右側は車がすれ違うには苦労しそうななだらかな坂道、その更に右側には徒歩でしか入れない、小路と呼べそうな細道が続いていた。  電車の中で見た地図ではどの道でも最終的には宿に行けた気がする。森はリラックスに良いんだったかと考えていると、ポケットに突っ込んでいたスマートフォンが震えた。
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