脇役ヒーロー

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 俺の強がりを「はいはい」といつもの調子であしらいながら、成瀬くんが早足に歩き始める。遠ざかるその背中はなんだか、「ま、俺は失恋とは無縁の場所にいるんで」とでも言っているようで。  いやそれは俺の単なる妄想であって理不尽極まりないのだけれど、どうにも腹立たしいので、そのポーカーフェイスをひっぺがしてやることにした。 「俺、今度は京子さんみたいな人を好きになろうかな」  ぎょっとした顔が振り返る。そうそう、そういう顔が見たかったんだよ。 「みたいな人だよ。京子さんとは言ってないだろ」 「やっぱりお前はうざい。そして胡散臭い」 「失礼だな、成瀬くん」  俺が肩を並べると、成瀬くんは余計にスピードを上げた。    気づいたら星野先輩の氷が小さくなっていたのは、誰かの力が加わったからなのか、先輩が一人で乗り越えたからなのか。何もできずに平行線を辿るままだった俺は知らない。これからもきっと、知ることはできないと思う。  ただ俺は、学校中のスター星野すずの中に、氷みたいな冷たさを抱えた期間があったことも、それがだんだんと溶けていることも、知っている。だから十分満足だなんて言えないけれど、いつかこの恋を振り返ったとき、そのことが気休めにはなるかもしれない。  成瀬くんに追いつこうと、大きく足を踏み出す。ポケットに入れた封筒が太ももを撫ぜる。まだ冷たさの残る追い風が、ふわりと俺の背中を押すように通り過ぎていく。  さあ、戻ろう。  星野先輩が読む、渋々の答辞を聞きに。   − fin −
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