傷心リバース

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傷心リバース

「あ」  人だらけのホームで、自分の呟きがやけに鮮明に聞こえた。周りからの視線に刺される前に、慌てて口を手でふさぐ。足元のコンクリートが崩れ落ちてしまったかのような幻を見ているうちに、目の前で電車が出発してしまった。  その日はたまたま仲良しグループの中でも私だけが先生に呼び止められてしまい、たまたま一人で帰ることになった。私には先生に呼び止められるようなことをした覚えはなくて、もしかして、「中学のとき転校したらしいけど、どうして?」みたいな最低なことを聞かれてしまうんじゃないかと心配していた。それは杞憂に終わった。  けれどそのせいで、駅のホームで、私と同じ制服を着た木下(きのした)さんと智起(ともき)くんを見つけてしまった。  何度も何度も、忘れないように剥がしては、忘れたくて放ったらかしにしていた心の瘡蓋が、また痛みになって主張してくる。爪でひっかいて剥がそうとすると、失敗して肉が抉れるような痛みが私を襲う。  しばらくしてやって来た電車になんとか乗り込んだ。満員電車の真ん中で、あらゆる方向から押しつぶされる。息が、しづらい。 「美月(みづき)、何かあった?」  帰宅すると、制服のスカートをしわくちゃにしながらソファにふんぞり返っているすずちゃんが私の顔を指さす。 「顔、青いよ」 「うそ。走って帰ってきたからかな」 「なら赤くなるって」  声のトーンに抑揚はないけれど、口元を緩めればすずちゃんの美人度は更に増した。  親戚である星野(ほしの)姉弟と一緒に暮らし始めて、一年半が経つ。この一年半の間で、姉であるすずちゃんとの距離は一気に縮まった。お父さんやお母さんに言えないことも、すずちゃんになら内緒話をするように話せた。そしてすずちゃんは、私のことを受け入れ、理解してくれる。  私の、唯一の人。同じ歳だし、双子の姉妹のような感覚だった。だから今日だって、すずちゃんに言わなきゃ、と思いながら足早に帰って来たのだ。  呼吸を整え、すずちゃんの隣に腰を下ろす。 「あのね、いじめられていたときのクラスメイトが、同じ高校にいたの」
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