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その日は朝から忌一宛に面会客が訪れていた。彼があかつきの家に預けられてから、初めてのことだ。
綾乃先生に呼び出され面会室に通されると、何度か来訪していた松原夫妻がそこには居た。
「忌一君、こんにちは」
「こんにちは、松原さん」
「今日はね、忌一君に大事なお話があってやって来たの」
晴海と目が合うと、忌一は何だか恥ずかしくなってもじもじと視線を反らす。晴海の隣に座る清治は、ただニコニコとその場を見守っていた。
「私達ね、忌一君と家族になりたいと思ってるの」
「え……」
「どうかしら?」
突然のことで驚いたのも束の間、忌一の表情は次第に曇っていった。
「でも僕、ウソつきだよ?」
「その話は先生から聞いてるよ。でも忌一君は、本当に嘘をついていたの?」
「……」
「私には、忌一君が本当に悪い子だとは思えないの。最初にここへ来た時もちゃんとお話してくれたし、ここへ来る度に挨拶してくれたでしょう? だからこうして今日は、忌一君のことをもっと知りたくて会いに来たんだよ」
忌一は俯いていた。前髪で見えないその顔から、ポタッポタッと雫が落ちる。
「僕は……ウソなんかついてない」
「うん」
「皆……信じてくれないんだ……」
「そうだね」
晴海は彼の頭を優しく撫でた。
あかつきの家の大人たちは、忌一の言葉を否定こそしないものの、全面的に信じているという風でもなく、とにかく他の子達が怖がるからと、聞き流すことしかなかった。それが今やっと目の前に、自分のことを理解しようとする者が現れている。
もう一生現れないのかもしれないと、半分は諦めていた。同じものを見れないのだから、それは仕方のないことなのだと。これからもずっと自分は、独りぼっちなのだと。
肉親でさえ異能の自分を捨てたのに、目の前のこの人達は、こんな自分と家族になろうとしている。
「今すぐに決めなくていいから。ゆっくり考えて? 私達と家族になるってこと。いつまででも待ってるから」
そう言って、松原夫妻は「また来るね」と言い残して帰って行った。
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