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青々とした草が所々に生えた大きな橋を渡り切ると、登山道一合目の立札が真っ直ぐこちらを見ていた。両脇には白っぽい小さな花が群れをなして揺れ、下を流れる小川のせせらぎが妙に心地よく弾むように胸が高鳴る。
久しぶりの山登りにわくわくが抑えられないのは言うまでもなかった。まるで自分が小学生のころに戻ったような気分だ。
リュックを担ぎ直すと、そのまま登山道を歩き始める。登山道といっても傾斜はなだらか。履き慣れたスニーカー、ジーンズに半袖シャツ、手には軍手、頭にはキャップを被っているが、それくらいの軽装備で十分だった。
日焼け止めも虫除けスプレーも塗りたくったし、頂上まで一時間強くらいの軽い山登りなので、特に問題はないだろう。リュックの中にはコンビニで買ったおにぎり数個とスナック菓子と大きめの水筒、凍らしたパックのジュース飲料が入っていた。歩く度に、水筒の中の氷がカランコロンと小気味よい音をたてる。
登るのは小学生以来だったが、なぜ一人で登ろうと思ったのかは覚えていない。理由なんてあってもなくてもいい。思い立ったが吉日、私はそういう性格だった。
迷うはずもない登山道であるのに、私ははたと足を止める。道がわからなくなってしまったのだ。おかしいな、と思いしばらくその場に佇んでいると背中の方から声が聞こえた。
「莉遠?」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにはいっちゃんがいた。
いっちゃんとは保育園と小学校が一緒だったが、中学校からは別々な学校に通うようになった男の子だった。
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