恐怖探偵

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 『あなたが恐いものは何ですか』  握りしめたチラシに文字が踊る。夏の夕刻、足を踏み入れたそこは、奇妙で奇特な人たちが集うおかしな事務所だった。  ドアノブに触れようと伸ばした手を思わず引っ込める。本当にここであっているのだろうか。地図も目印もかかれていないチラシをもう一度確認し、周囲を見渡す。古風な喫茶店と”いさむ”と書かれた靴屋に挟まれたこの建物は、いささか窮屈なほど細長く構えられていた。長方形に積まれた石の壁に深い色をした木造の扉。外から見た限りではあまり土地の面積がないように思える。京都の長屋のような造りなのだろうか。一見さんお断りの店のような入りにくさがある。看板もないので不安が募る。スマホという現代の利器がなければ、道行く人に聞き回るか交番でたずねるしかなかっただろう。住所だけでたどり着くには目立たなさすぎる。唾を飲み込み、もう一度手を伸ばした。しかしふたたびノブに触れることが叶わなかったのは、目の前のドアが横にスライドし、建物の中へと導くかのように開いたからだ。 「引き戸だったんだ」  驚くべきはそこではない気はしたが、すでに私の意識はその先へと移っていた。手にした紙がくしゃりと鳴く。指を滑る感触は安っぽいわら半紙とは異なり和紙のように滑らかで、シンプルな文言を際立たせるに相応しかった。 『一つ お代、頂きません。二つ 霊障、受け付けません。三つ 解決、保証いたしません。恐怖探偵社』
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