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序 (八月二十三日)
月が浮かんでいる。視線を落とすと、路肩の闇にぬめりがたまっていた。
八月とはいえ、日が暮れてから時間が経っても熱が引かないのは辛い。堀口奈美はカーエアコンの設定温度を二度下げた。
……冷房効かないわね。冷却剤が古くなったのかしら。今度、ガソリンスタンドでみてもらお……
そう思いながら、いつもより遅い時間に国道を北に向かって車を走らせていた。車内のデジタル時計は午後十時を指している。家まであと十五分くらいだろうか。
今日は、店の改装を前に業者と打ち合わせをした後、新商品開発と新装開店大売り出しの計画を立てた。店を閉めているのだから、開店時より暇になると思ったら大間違いだ。連日残業が続いている。体は疲れ切っていた。一瞬、眠気が襲い、意識が途切れる。はっとして、気を取り直した。
…… あぶない。事故を起こすところだった ……
奈美はそう思い、首を左右に振り目を見開くと、ダッシュボードから眠気を飛ばすガムを取り出して噛んだ。道は丘沿いのカーブにさし掛かっている。ハンドル操作に気を配りながらアクセルを踏む足を緩めた。
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