蜜月旅行

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 札幌中央図書館の裏庭のベンチに腰掛け、俺は、お父さんと小さな息子が楽し気にキャッチボールをしているのを眺めていた。ふと、藻岩山(もいわやま)の頂きに目をやると、山肌を覆う青々とした新緑と空が溶け合う境い目には暗雲が垂れ込めている。  涙がとめどなく流れた。なんでだよ! 思わず、口にしたその時、スマホが鳴った。それは、俺が前日ツイッターに流したつぶやきにコメントがついたことを告げる通知音だった。 俺は北海道札幌生まれの20歳。大学の工学部でシステムエンジニアを目指す平凡な男だ。ロシアの作家チェーホフの短編を読んだ感想をツイッターにあげていたら、突然、一人の女の子がコメントを寄せてきた。鹿児島のとある漁港の近くに住んでいて、教師を目指している19歳の女子だという。  その時に投稿したのは、チェーホフの『箱に入った男』を読んだ読後感だった。
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