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前略
松浦君。久しぶりだな、君の名前を呼ぶの。
そうか迎えが来るのか。時間が無さそうだから、早速本題だ。君が手紙に書いていたように君の正体が宇宙人だとしたら、君の人生はさぞかし大変なものだったろうな。君は僕が君の本当の姿に気付いていたみたいに書いていたけど、僕が君のことをどこまで理解していたか、正直言って自信はない。
僕がもっと踏み込んで君を理解する努力をしていたら、君はもっとこの世界に馴染めていたかもしれない、なんて思うのはきっと僕の驕りだろうね。
しかしね少し照れるけど、あの理科の授業中に起きた理不尽極まりない山下の暴力の後に僕が例えば君をハグしていたとしても、君の言う棘や青い炎で僕が傷つくなんてことにはならなかったと思うよ。それはただ何となくだけど、僕が君の敵ではなかったからで、誰でも彼でも君のせいで傷つくわけじゃない。
正直なところ、どう言い繕っても君は大分変わり者のクラスメイトだったのは間違いない。それでも僕は君と親しくなりたいと思っていた。まあ何を言っても今更感は拭えないがあれから四十年という長い年月が経って、君が人間に成れなかったこと?を何だかんだ言っても、全て今更だし、無責任かもしれないけどそれはそれで良かったのかもしれない。あの日、奇しくも山下が人類を代表して正体を現わしたように、ここだけの話、人間なんて実際ロクなもんじゃないし、僕自身、何度も人間に失望したことがある。だから君は宇宙人のままで良いさ。僕はあれこれ選べないからせいぜい、このロクでもない世界を自分なりに楽しむよ。
この年齢まで生きたらジタバタせずに、それぞれが作り上げた世界でそれなりに楽しむことさ、与えられた時間が終わるまで。
待ちに待った迎えが来たら君は本来居るべき世界にやっと行けるんだな。君が人間に取り込まれずに宇宙人のままでいたこと、これからもいること、誰がどう言おうがいいさ。何度も言うけど人間なんてロクなもんじゃない。ホッキョクグマが絶滅するより、人間が絶滅した方がマシさ……なんて、これはまた別の話だな。
とにかく元気でいろよ。
僕は君が宇宙人だということを信じるし、宇宙から迎えが来ることも信じる。そして切に願うよ。これからの君が、囚われていた全てのものから解放されて心安らげることを。
ロクでもない世界の住人Kより
END
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