五年め

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五年め

 事態がようやく動き出す。それはいきなり訪れた。 「え、千紘のご家族に?」 「一度くらい、連れて来いって」 この五年の間に、幾度か千紘の母とは顔を合わせる機会があった。でも、それはたまたま訪れた偶然に近いもので、正式に紹介をされた事はなかった。 「姉貴と弟夫婦も集まってる」 気が重いな。彼女です、って紹介をして、千紘はそれからなんて言うんだろう。 「食事するだけだから」 結局、押し切られる様にして食事会に行く約束をした。 「俺、……四つ歳上」 は? 今、なんて言ったの!? 爆弾発言が千紘から飛び出す。 「今までずっと隠してたの!?」 五年も付き合ってきて初めて知る事実。 「同じ歳だって言ったじゃない」 出逢った頃、私と同じくらい?って尋ねたら、千紘は確かに頷いた。 「後で言い損ねて」 訂正するタイミングを逃して今に至る…… いや、それはあんまりだ。ご家族に会う直前での告白。ケンカしている場合でもない。  もやもやした怒りが胸を覆う。  それでも、食事会での千紘は緊張で固まる私をずっと気遣ってくれてたから、笑い話に変えるんだって思い直した。  今さら嫌いになんてなれないもの。
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