三年め

1/1
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

三年め

 心が震える―― 「弟が結婚するんだ」 彼の思いがけない台詞に、私は一瞬言葉を失った。  付き合い出して三年になる彼、瀬戸千紘(せとちひろ)は、私の方を見向きもせず運転を続けてる。 「それで、近いうちに越して来るらしくて」 実家に同居をするんだと言いながら、フロントガラスの向こうに目を向けてる。 「そう… なの…」 やっぱり言葉に詰まる。結婚? 同居? 千紘よりも先に弟さんが? 「千紘はどうするの?」  ようやく出た私の問いに千紘はさらりと答えた。 「部屋なら余ってるし、別に構わないけど」 私は助手席で千紘から顔を背けてた。言い様のないざわつきが胸を締めつけていたから。  私達は二人で暮らせないの……?  過去に交わされた言葉が思い出される。 『一緒に暮らさない?』  『いや、真穂と違って俺は実家だから』  千紘には結婚願望がまるでない。自宅は広く、玄関が別に作られた完全分離型の部屋に住む。誰が同居しようと千紘の生活は干渉されない。  居心地が良いんだと知ってから、私は千紘との結婚は諦めていたのに。    静かな怒りが湧いた。千紘は本当に、私との結婚なんて考えてなかったんだ。 「真穂?」 大好きだから離れられない。深く深呼吸をして気持ちを抑え込んだ。  未来って、どこにあるんだろう。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!