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三年め
心が震える――
「弟が結婚するんだ」
彼の思いがけない台詞に、私は一瞬言葉を失った。
付き合い出して三年になる彼、瀬戸千紘は、私の方を見向きもせず運転を続けてる。
「それで、近いうちに越して来るらしくて」
実家に同居をするんだと言いながら、フロントガラスの向こうに目を向けてる。
「そう… なの…」
やっぱり言葉に詰まる。結婚? 同居? 千紘よりも先に弟さんが?
「千紘はどうするの?」
ようやく出た私の問いに千紘はさらりと答えた。
「部屋なら余ってるし、別に構わないけど」
私は助手席で千紘から顔を背けてた。言い様のないざわつきが胸を締めつけていたから。
私達は二人で暮らせないの……?
過去に交わされた言葉が思い出される。
『一緒に暮らさない?』
『いや、真穂と違って俺は実家だから』
千紘には結婚願望がまるでない。自宅は広く、玄関が別に作られた完全分離型の部屋に住む。誰が同居しようと千紘の生活は干渉されない。
居心地が良いんだと知ってから、私は千紘との結婚は諦めていたのに。
静かな怒りが湧いた。千紘は本当に、私との結婚なんて考えてなかったんだ。
「真穂?」
大好きだから離れられない。深く深呼吸をして気持ちを抑え込んだ。
未来って、どこにあるんだろう。
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