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………
…
案内された病室の前に立つ。
「……」
病室の扉に手をかけようとすると…
「玲、ちょっと待って」
「なに?」
一刻も早く愛に会いたいと思っていると、
後ろからアイに声をかけられる。
ふよふよと浮いていこちらを見ている。
「私…玲に隠してることある」
「は?何だ急に…今はそんなこと…」
「いいから聞いて」
アイが制する。
こういう強引なところは愛の面影がある。
「私本当は恨み言の言霊じゃないんだよ」
「え?」
「愛ちゃんの性格が元になってるからかな?
なんか最初、素直になれなかったんだよね」
「いや、だって最初に罵倒したいって」
「恨み言の言霊なら、
会った時点で呪い殺してるよ。
でもそうしないで…
愛ちゃんに会うように仕向けた」
たしかに…
大家さんの話で愛は俺と喧嘩したことを
悔いているって言ってた。
それじゃ…アイはいったい…
「私…本当は『会いたい』って言葉の言霊なの」
「…会い…たい?」
「愛ちゃんきっと…
玲とすっごく会いたかったんだよ。
だって私、玲といるの楽しかったもん」
「アイ…」
愛は俺を恨んでたんじゃないのか。
言霊を生むほど…会いたいって…
思ってくれてたのか…。
「玲、私の役目はここまで。
言霊として会いたいって想いを叶えられた」
「アイもしかして…お前…」
「私と別れるより、
愛ちゃんと別れる方が辛いでしょ」
スゥッとアイの半透明だった体が
どんどん透けていく。
「アイ…」
「…早く行けノロマ」
その言葉を最後に…
アイはパッと目の前から消えた。
凛とした声。その罵倒は優しげな声色だった。
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