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「……は?」
人間、驚きすぎると言葉を失うらしい。
この部屋に来る人間などいるはずもない。
東京で友人も恋人も出来たことがないのだから。
誰もいないはずだったのだ。
アッシュの髪に切れ長の瞳に薄い白い肌。
ベールのような白い服を身に纏っている。
この世のものとは思えない布地。
美人と呼んで差し支えない女性が部屋にいた。
「暗闇でいつまで待たせる気だ!
お前はノロマなやつだな!」
そしてその見覚えのない女性に
邂逅そうそう凛とした声で罵られる。
「……」
パクパクと金魚のように口を開けて
唖然とする俺に彼女はさらに続ける。
「ほんと呪い殺してやろうか!?えぇ!?」
いや…こわ…。
うん…これは通報案件だ。
激しく怒る女性を前にして、
驚きを超えて冷静になる。
スマホを取り出して冷静に…1、1、0…
着信ボタンに指を乗せ、
あらためて彼女を見ると…
「…ぇ」
彼女の体は半透明で
透けているように見えていた。
彼女越しに見慣れた部屋の壁が見える。
え、なんでこの人透けて…?
…よく見たらフワフワ浮いてるんだけど。
「君…誰…?」
「私が誰かは知らん!でも私は幽霊!
言葉に宿る幽霊、言霊よ!」
俺の手からスマホが落ちる。
ビシッと…彼女が俺を指さして…
その指が俺の胸を貫いた。物理的に。
彼女のしなやかな指の半分ほどが
俺の胸に埋まった。痛みはない。
彼女の肉体は透けているのだと理解した。
「ええええええ!!」
俺の声が狭い部屋に木霊した。
どうやら人間は驚くと声が出るらしい。
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