嚆矢

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嚆矢

銀色の眼差しに白銀の毛並み 美月もその瞳に捉えられると顔が強張る 愛していた人が血塗れで冷たくなっている姿 美月は目眩と吐き気に襲われる 大切にしていた人が目を離した瞬間に居なくなってしまう運命を再び味わう恐怖 手の震え 瞳が紅く光る 明らかに美月の震えから恐怖がこみ上げる 古代種を受けついた生体は”神裔のモノ”と呼んでいる 純血種を死に追いやることができる唯一の種族 「…美月」 琴葉は朝から無言の彼を心配そうに横目で見つめた 最後まで至らなくても、彼と一緒にいることで距離が近くなるのを感じる 「約束を果たしてくれてありがとう…もう後戻り出来ないよ」 学校の近くの駐車場に車を止めて、美月は琴葉にキスをした 日に日に尊に近づいている琴葉の顔立ちに美月は昔の自分の想いが蘇り浮かれていた ”神裔のモノ”が現れるまでは… 「天城、話がある」 琴葉が居ない時を見計らって席についている美月に敬太が話しかける 「ここで話せば良い」 美月は無表情な顔で敬太に問いただす 「俺は琴ちゃんの事が好きだ、お前には譲るわけにいかない」 敬太は突然美月に先制布告を告げる 周りがざわめき出す 「悪いな…朝婚姻届を出して、戸籍上はすでに琴葉は俺の妻になっている、一足遅かったな…」 不敵な笑みで美月は敬太に語りかける 敬太の顔が憤怒の表情になると、美月の胸元のシャツを掴み左ストレートを決めようとしたが 美月は素早く敬太の首筋に傷を入れ手に付着した血を舐める 2人の行動が周りにいる誰もが素早い動きで察知出来ずにいる 「お前…人間の癖に変な血の味だな」 美月の瞳の色が微かに赤く光り、妖しい笑みで彼を見つめた 人とかけ離れた狂気に満ちた表情で敬太の背中に悪寒が走る 彼女から貰った半妖の血清を使っても美月の能力を上回る事ができなかった時点で化け物だと悟った 「教室でその能力を使用するのは他の目が多すぎて刺激が強い…場所を変えよう」 美月は立ち上がると敬太と共に教室を出る 美月と敬太は屋上に場所を移す 「得体のしれない化け物に琴ちゃんは渡せせない!」 敬太の憎悪は計り知れないほど怒りという感情に支配されていた 「どこまで俺のことを知っているのか分からないが、お前も通常の人より化け物に近づいている時点で俺のことは言えないな…むしろその程度の力など俺にとっては然程問題ではない」 再び敬太の怒りは止まらず美月に向かって襲い掛かる 敬太の右ストレートを美月は素早く敬太の後ろを回り背中を突き飛ばす 「彼女の騎士のつもりかい?妻のお友だちだから手荒な真似はしないが少々僕の質問には答えてもらわないといけないね」 「くそ…」 敬太は床に転がり悔しそうな顔で美月を見上げる 屋上の扉が開くと琴葉が息を切らして入ってきた 敬太が倒れている姿を見て走り体を起こす 「大丈夫?!一体二人でどうしちゃったの?」 「突然美月に突き飛ばされて…」 敬太はそっぽを向き嘘をついた 「どうして…酷いよ、私の大事な友人に乱暴しないで」 転んだ時に腕に擦りむいた傷から血が流れ出ている姿を見て彼女は涙を浮かべた 「すまなかった…」 美月は敬太を抱え保健室に連れていく 「先に教室に戻って、私が敬太を看るから」 保健室に入る間際、琴葉は美月を廊下に残した
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