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純血種
「敬ちゃん琴葉のお見舞いに来ていただいてたなんて、忙しい中申し訳ないわね」
琴葉の両親が病室の扉に佇んでいる
敬太は我に帰りお見舞い用の花束を彼女の母に手渡す
「おばさん、彼は誰なんですか?」
縋るように彼女の母に問いかける
小さいころから彼女を見守りながら慕い支えてきたと敬太は昔から着実に温めてきた琴葉への恋心の想いを、いきなりどこの馬の骨かわからない男に奪われるわけにいかなかった
「敬ちゃん、、彼は琴葉の命の恩人よ、、」
琴葉の母は申し訳ないような複雑な表情で微笑む
「僕は…琴ちゃん」
敬太は何か言いかけようとしたが言葉が詰まる
「この場で申し訳ないが、美月くん。琴葉をよろしく頼む」
琴葉の父が美月に向かって頭を下げる
美月は優しく微笑みながら琴葉の肩に手を置き、父に向かい軽く会釈する
「琴葉さんのことは一生全力で守ります」
琴葉は目を大きくして美月の肩にかけた腕を掴む
敬太は何も言わずに病室を出る
両親は二言三言言ったのち病室を離れる
「一生って…私あなたのこと何も知らない」
琴葉が呆然としていると、美月は後ろから肩を抱きしめた
「それに、なぜ私なの?」
涙ぐむ顔を見られないように琴葉は手で顔を覆う
突然過ぎる出来事で琴葉は混乱していた
「今日は目覚めたばかりだから大分混乱しているようだから、ゆっくり寝て整理をするといい、また明日迎えに来るよ、明日きちんと話そう」
美月は彼女の頭を優しくなで抱きしめる
「あなたのこと何も知らないのに…お父さんもお母さんもみんな全部どうかしている、、」
琴葉は混乱していた
手の震えが止まらない
この状況を受け入れていいのかすらわからない
深い不安な気持ちと同時に喉の渇きを感じる
ドキ、、ドキ、、
心臓の音が大きく聞こえる
欲しい…
あの甘美な味を思い出す
「琴葉、、欲しいかい?」
美月は彼女に優しく問いかける
「欲しい…欲しい」
美月は手首を傷つけ血を口の中に含ませる
彼の血の誘惑なのか琴葉は抵抗もできず身をゆだねるように彼に寄りかかる軽く顎を持ち上げると口づけをする
琴葉の虚ろな目で血の飲み干し、満足するとそのまま気を失うように美月の胸の中に身を委ねる
「君は俺から逃げることなんて絶対に出来ない」
眠る琴葉に何度もキスをする
「明日から俺と一緒に住んでもらう、君の両親の了承は取っている荷物も一切の家具も俺の自宅に移動は完了してる」
翌日、退院手続きをしているときに美月が告げる
「待って、、親に了承って」
琴葉は怒りに体を震えベットから身を乗り出す
「俺が今まで手薬煉引いて待っていたわけじゃないよ、琴葉を花嫁として迎え一生支えると両親の前でも宣言して…既に君との契約も済んでいる…」
美月の美しい顔が歪むこともなく、涼しい顔で答える姿で答える彼を見て琴葉はさらにイラつかせた
「…花嫁って、、唐突すぎる、第一男の人と一緒に暮らすなんて実感湧かない…あなたのことよく知らないのに…突然キスまでするなんて酷いわ」
琴葉は体が小刻みに震え戸惑いを隠せない口調になる
何も恋愛の場を踏んでいない!
「唐突でもない、俺は君が生まれたころから決めていた、君の血の匂いを嗅ぎ付けて、琴葉と愛し合える年齢になるまで待っていた、これでも気を使って近づいたつもりだけど」
私に近づく前に両親にまで近づいていたなんて!!!
美月は呆れたような表情をする
「あと、、親の了承って、、私の親にも何かしたってこと?」
「ああ、ご名答。もちろん、君の父上とは既に仕事上の話の上で接点は作っていた、君と直接接触する前々から婚姻の話は進ませていた、あの事故がなければ俺としてはもっと自然な形で琴葉を奪いたかった…事故以来、君に直接触れてから我慢できなくなってしまったよ」
美月が美しい顔で情熱的なことを言う姿に琴葉の心が揺さぶる
「君との契約はある意味で強引なのは認めている、ある程度は譲歩するよ、でも絶対に離さないから」
儀式のときに見せた顔に似ていて胸が痛くなる
舌を絡ませるような情熱的な口づけを思い出すと体が熱くなる
近くにあったナイフで美月の腕を切ると血がにじみ出る
血を見ながら琴葉は傷口にゆっくり口をつける
「俺はお前のもの」
流れる血を飲みながら琴葉は頬に涙が伝う
「君から血の契約で死を奪ってしまった責任は俺にある、一生かけて償う」
狂ったように誰かの血を飲む化け物になってしまったことから抜け出せない
「私、吸血鬼になったみたいね」
琴葉が涙目でため息を付く
「俺も吸血鬼だからね…ただし純血種末裔だから人の血は吸わない」
「純血種?」
「吸血鬼の起源に辿る根源の血の一種。純血種は一子相伝、一人にしか継げない。本当の起源は定かではない」
「俗にいう人の血を欲する吸血鬼は、あれは半妖と言って半分だけ吸血鬼に変わった成れの果ての獣。食事に関しては延命をするためにだけに動物の血を吸い続ける。飢餓状態の症状が強く出ると理性と細胞の欠落が始まり、人ではない醜い姿に変身をすることで半永久的に生きることが可能だが、純血種より遺伝子が欠けているから感染させて半妖にすることはできるが人との間の交配能力がなくなり理性がない…ただの獣と化す」
「じゃあ私も…半妖なの?」
「君は純血種の血の交配の儀を行っただけで、俺の血を飲むことで延命しているだけだ、人間と変わらないが俺の血でないと延命はない」
「そ、そう、、って…天城さん血を飲み続けないと明日にも死んじゃうの?!」
「眠っている間は死ななかっただろ?…ただ君は致死量の傷を負って死んでいることになっているから与え続けないと延命は出来ない。強制的に君の体が俺の血を欲する。無論、俺の血は一人しか分け与えることができない」
「あの儀式のことね」
「ああ、儀式のせいで琴葉の前で美意識にかける姿になるのは申し訳なかったが、あのまま天国に君を逝かせるわけにいかなかった」
少なからず、美月は悪魔だろうが命の恩人である事実には変わらない
悲しい顔の美月に抱きしめられるが、抵抗することなく受け入れた
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