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満ちては引く死の鼓動
高校2年の春
それは突然嵐のようにやってきた
学校の帰り交差点を曲がる長い道のりは、
まるで迷宮に迷い込んだような感覚に陥る
ここ数週間
誰かの視線を強く感じる
確信する何かでもない
ただ磁石が反応するような
目に見えないもの
先月16歳の誕生日を迎えた日から
その感覚は時折あったがここ数日強く感じている
言葉にすれば
何かどこかしら懐かしい目に見えない熱い視線
しかし、周りを見ても姿は見えない
放課後、学校から出ると聞き覚えのある男性の声がする
「琴ちゃん?」
手塚琴葉は声がする方向を振り向くと、中肉中背で見た目は可愛いけど芯は強いお兄さんタイプの幼馴染の川崎敬太が話しかけてきた
「敬太?」
敬太が琴葉の横に並んで歩き出す
"敬太が何かいいたそうな顔…"
「これから帰り?」
彼は少年っぽい笑みを浮かべた
「うん、、今日はみんなバイトで女子会もなし、帰るだけ…」
「俺も生徒会もないから家に帰るだけ、、一緒に帰る?」
琴葉は頷き、敬太も満足そうな顔をする
「敬太、生徒会は忙しいの?」
「ボチボチ」
「生徒会に入ってから女子に人気でびっくりしたよ」
琴葉は意地悪っぽく敬太の肩を突っついた
「そんなことねぇよ」
敬太は琴葉の鼻ズラを、軽く指で弾く
「痛ったぁーい」
「琴ちゃんは…今週末って何してるの?」
敬太は急に話を変え琴葉に真剣な視線を移す
「ん、、別に時には、、」
「そうかぁ、、」
少し敬太は嬉しそうに顔を赤らめる
「どうかしたの!」
「俺と… その、あ、姉貴の誕生日が近くてさ、、困ってるんだよね、、プレゼントとかさ、、一緒に付き合ってくれない?」
敬太は咄嗟に嘘をつき、頭を俯かせ深いため息をつく
お姉さんの誕生日は別の日で全く関係がない
ただのデートに誘う予定がまさかの嘘のきっかけを入れてしまうなんて…
「いいよ!私もお世話になっているから、、私も少しカンパするから共同購入しようよ!」
突然の提案で敬太は少し焦り複雑な表情になる
「いや。。あぁ、(不味いな…)じゃあそうだね」
敬太は涙ぐんだ表情をした
琴葉の家の前まで行くと
敬太は見送った後、自宅に入っていく
あの熱い視線は
敬太がいるのにも関わらず
ずっと後ろから感じる
週末の日
待ち合わせ場所は自宅前ではなく繁華街の駅前を指定してきた
琴葉は少し早く目的地に着き、駅の近くにあるお気に入りの雑貨屋に入ろうとした
その時、通り向かい側にある綺麗な貴金属店に敬太が吸い込まれるように入るのを目にする
「あれ?敬太も先に来ているの?」
後ろから驚かしてやろうと向こう側の通りを渡ろうとした
そこは横断歩道もないところだったが今のところ車が来る気配を感じない
すぐ渡って仕舞えば大丈夫?!
琴葉は向かい側の通りに行くために道路に入る
「っ!!」
目を大きく開き声を出す
あの視線?
道路の真ん中まで来た時に
今までより強く感じて振り向く
すぐ後ろの反対側、さっきまでいた歩道に背が高く黒髪に透き通るような青みかかったグレー色黒いシックなスーツを着ている
目鼻立ちが整った浮世離れした美しい青年に思わず琴葉は見とれる
今まで出会った異性の中で、一瞬で惹かれてしまうくらい魅力的だった
あの視線は…この人に違いない
思わずと叫んでしまいそうになったのを
琴葉は辛うじて抑える
彼が琴葉に向かって走ってくる
途端、琴葉の前方の道路から大型車がクラックションが鳴りブレーキ音と共に迫ってくる
琴葉は車にぶつかる瞬間まで彼の熱い眼差しから身動きができなかった
黒髪の男性は瞬間移動するように素早く琴葉の正面に立つ
耳元で彼が小さくつぶやく
「もう離さない」
遠くから声がする
「琴ちゃん」
敬太が叫ぶ
周りが騒然とする
場面が切り替わるように
振り向きざま
大型車に追突し琴葉は体が宙に舞う
地面にたたきつけられた時には一面の血の海となる
琴葉の目から涙はこぼれ、既に息はなくなっていた
一瞬暗闇が広がる
頭上に薄明るい光
「怖がらなくていい 俺がお前を還す」
琴葉は意識は朦朧としている中、黒髪の男性に抱きかかえられてた
微かに白檀の香り
意識がぼんやりしている
血の気が引き体が次第に冷えて氷のような寒さに変わる
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