四 あの日へ

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腰に衝撃が走り顔を顰めた。元の人気の無いシアター・ロマンチカのペアシートにドサッと落とされたからだ。 「ちょっと落ち方が乱暴」 「だよな」 苦笑いをして見つめ合った私達は痛むお尻を摩りながら、逃げる為に映画館の扉を開けた。 外は涼やかな夜が始まっていた。走るスニーカーの足音に虫の音が合わさって耳に楽しい。入場券売り場にも外にもあの椿の簪の女性はいなかった。 手を繋いで鉄門を閉めて、私達はそこを後にした。 「ねえ、敦史、まだ時間、大丈夫?」 「うん」 「清水寺のライトアップ観に行かない? 夜の紅葉、まだ見た事なかったよね?」 「ああ。いいね、行こうか」 そんな私達の背中を見送る影があった。 足元にすり寄る猫にその人は言った。 「慰めてくれるのかい、いいこだね」 椿の簪の女は猫を抱き上げて頬ずりをした。 振り返った私はそれに気がついたけれど、わざと気がつかないふりをして敦史の腕に凭れた。 あの人はまた人間のふりをして、 誰かと誰かの愛を試そうとするのだろうか。 FIN
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