シアター・ロマンチカ

二 ふしぎなデート

中はごく普通のミニシアターだった。

臙脂色(えんじいろ)のシートは傷んでいて背面が剥がれているものもある。床の隅は埃だらけで、さっきの女性が一人でやっているのなら仕方ないのかもしれないと思えた。既に座っていた客の頭が見えたけれど、二つだけ。潰れる理由はそのあたりにあるのかも。チケットに書かれていた座席はペアシートだった。

上映される映画は「ローマの休日」で、一回だけ観た事があった。

オードリー・ヘップバーン演じるアン王女が新聞記者とローマで出逢い、身分を隠してデートをするうちに許されざる恋に落ちるというロマンチックなお話で、父と離婚して実家のある京都へ戻る前に映画制作にも携わるヘアメイクの仕事をしていた母はこの映画が好きで、DVDを部屋で観ていた時に何気なく観ていたが、だいぶ前の事なので思い出しながら観た。

スクリーンの中で楽しそうにデートする二人を見ていたら手を繋ぎたくなった。敦史に手を伸ばしたら首を上向けて口を開けて寝ている。連日の仕事の忙しさで疲れているのはわかるけど…。

ムカつくからコーラ、全部、飲んじゃえ、と敦史の紙カップに手を伸ばした。