卒業の日、希望咲く

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 中学時代、サッカー部だったという引き締まった体、しわもたるみもないすっきりしたフェイスライン。どれも六十を過ぎた豊島にはないものだ。 「なに? イケメンだなーって、うっとりしてた?」  高崎の言葉に、豊島は反射的に鼻を鳴らす。 「イケメンか。おー、すごいすごい」 「心こもってねーし。じいさんより、女子に眺められるほうがいいし」 「ああそうかい」  大げさに肩をすくめてみせ、豊島は視線を車内に移す。  ゆるりとした午後だ。車内には小さな子供を連れた母親や、外回りの最中か若いサラリーマンがうとうとしている。  先生さ、高崎の声に顔をあげる。乗務員室に背中を預け、言葉を続ける。 「なんで、先生になったの?」  思わぬ質問に瞬きする。今までも高崎からは様々な質問を投げかけられた。なんで正月におせち料理を食うんだとか、冬至ってなんだとか‐大体は子供のような質問だったが。だから高崎からそんな質問が来るなんて、夢にも思わなかった。 「なんで、か……」
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