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人もまばらな午後のホームは、少しだけ眩しい春の光が差し込んでいる。今頃あいつらは眠気と格闘しているのか、格闘の末負けてしまっているか。生徒たちと過ごせたのも、今では豊島にとってはいい思い出だ。
「げ、豊島」
光の眩しさに目を閉じ、豊島が三十数年の教師生活をたどろうとしていたとき、耳慣れた声が届いた。振り返れば、耳にジャラジャラとピアスを付けて嫌そうな顔をした高崎が、紙袋片手に足を止めている。穏やかな回想が頭の中から吹っ飛び、代わりに血の気が上がる。
「おまえ、授業中だろ!」
高崎の頭上にある電光掲示板の時刻は十四時二十七分、六時間目の授業中だ。
「先生だって同じじゃねーか」
電車の到着を告げるアナウンスが響く中、高崎はなぜか得意げに胸を張り、スロープ板を脇に抱えてきた駅員に同意を求めている。
「俺は退職してきたからいいんだよ」
「じゃ、もう先生じゃねーじゃん。あ、俺、補助しますんで」
高崎は車両にスロープ板をかける駅員に告げると、豊島の車いすをひょいと車内に押し入れた。
「先生思いの生徒さんですね」
「手のかかる生徒ですよ」
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