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高崎に褒められるのが気恥ずかしくて、目をそらす。車窓に桜の花びらが一片、張り付いたと思ったら、高崎が中腰になっていた。
「どうした?」
「いや、ちょっと」
口ごもったままの高崎は、窓に額を寄せていた。
「なにあれー?」
子供が外を指さしたのにつられ、豊島も車いすから身を乗り出した。
満開の桜並木の下だった。
『豊島先生ありがとう』
そんな横断幕を持って両端に立っているのは、今朝も豊島に遅刻を叱られた生徒と金髪を注意され続けてきた生徒。空いた手を子供みたいに振っている二人の間にいるのは、いずれも豊島が説教してきた生徒たちだ。
「どうして……」
「感動した?」
豊島の顔を覗き込む高崎の目が輝いている。
「アホ……」
風景が涙でにじんだ。教え子たちはだんだん小さくなっていき、それでもなお懸命に手を動かし続けていた。
注意するたび、大人はずるいと子供たちは言う。けど、子供たちの方がよっぽどずるい。大人がどこかに置いてきた柔軟な発想で、いとも簡単に大人を感動させてしまう。
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