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「やだ、恥ずかしい! もう、下ろしてったら! 」
「やだね 」
ポカポカと叩かれる背中。そんな可愛らしい抵抗で、こちらがあっさりと解放するなどと思っているのだろうか? 本気で思っているのだとしたら、男というものを全く知らない。
「……そんなのね、逆効果なんだよ 」
「え……? 」
「何でもない、こっちの話 」
それにしても、忌々しい。
したことは絶対に許せないことなのに、された本人は、それを忘れたかの様に助けられたと無邪気に言う。
何から助けられたのか、百も承知な、泣かせていた張本人としては、胸を掻き毟りたい位にモヤモヤとする。
ハジはいい、アレは奴に惚れているから。結局は好きな男に抱かれたのだし、どんなことをされたって最後には許すのだろうから。
幾ら可愛いと云えど、相手が男で、更にはアイツだったということには驚いたが、そんなのは本人同士の問題だ。
泣く程好きなのなら、もう手遅れなのだし勝手にやってくれと思う。
知らず知らずに、理紫の口からため息が零れた。
ーーーそれに、こっちは自分のことだけで精一杯なんだよ。
「ねぇ、さと…… 」
「あのさ、いい加減その口塞がれたい? 」
担がれた華奢な身体が、ビクリと揺れた。その一言が効いたのか、ホテルのフロントの前を抜ける時も、エレベーターに乗る時も、腕の中の小さな生き物は部屋に着くまで何も言わずにじっとしていた。
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