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「も……、いいよ 」
宝物をベッドにそっと下ろして、白く小さな顔に掛かる絹糸の様な髪を、払ってやるように指先で触れた時だった。やっと聞き取れる位のか細い声が聞こえた。
一瞬、何を言われたか分からなくて、理紫は誰よりも大切で愛しい子の顔を見詰める。
パッと桜色に染まる頬。理紫の視線に耐えられなくなったのか、ぷいっと横を向いた顔に思わず頬が緩む。すると、それを視界の端で見ていた海月が更に頬を紅く染めて、ぎゅっと目を瞑る。
その所作で分かってしまった。信じられないが、きっと、デレデレでだらしなく緩んだ自分の顔さえ、好ましく思ってくれているのだろう。
あーーー、もう、どうしてこんなに可愛いんですか? 俺を殺す気ですか?
俺のみぃちゃんは、一分、一秒、どこで時を止めたって、可愛くない時なんかない。
けれど、そんなことを思っていることを表面には出さずに心の中でジタバタしているから、その反動で苛めたくなってしまうのだと自分でも分かっている。それに、まだ誤魔化されてやる訳にはいかない。
理紫は、海月の蟀谷に、ちゅっと口付けを落とすと、「いいよって、何が? 」と分かっている癖に聞いた。
「え……? 」
つつ……っと口唇を伝わせ、驚く海月の無防備な耳を甘く噛む。
「ひゃ……んっ 」
「キスして欲しかったら、自分からちゃんといいなよ 」
弱いと計算ずくで、耳奥に囁いてやると、ビクビクと身体が震え、桜桃のように甘そうな、瑞々しく熟れた口唇からは、我慢しきれなかった吐息が零れた。
「自分……から? 」
「そう、自分から 」
確かめるみたいに復唱する海月に頷いてやれば、少し瞠目した後、やっぱり駄目とばかりにふるふると頭を振る。
その仕種も可愛くて、どうあっても骨抜きなのだと実感させられる。だがこれで許してやる訳にはいかなかった。こっちの気持ちを分からない、危機感の無い子に対するこれは『おしおき』なのだ。
だから悔し紛れに言った、意地の悪い言い方で。
「海月はいつになったら慣れるの? いつまで経っても初めてみたいにさ、どれだけ俺に抱かれたと思ってんだよ 」
するとその言葉に、理紫が思っていたよりも何故だか海月がひどく傷付いた顔をした。苛めたいけれど、傷付けたくはない。近い様でいて、それは全然違うものだ。
「み、つ……? 」
焦って名前を呼び終える前に、ほっそりとした手が理紫を引き寄せる。やんわりと口唇が重なったと思った直後だった。トンと胸を押し返される。
「みぃちゃん? 」
いつもでは考えられない大胆な行動に眼下の海月を凝視すると、海月が潤む大きな瞳でキッと睨み上げてきた。そして理紫の身体を押し退けて、徐に身体を起こすと理紫のベルトのバックルに手を伸ばしてくる。
「え……、あの、みぃちゃん? 海月さん? 」
今のキス位で驚くのは、尚早だったらしい。ベッドの上で猫の様に四つん這いになって、カチャカチャと理紫のベルトを外す。それこそ慣れない手で、ボトムのファスナーを下ろされる段になって、理紫は海月が何をしようとしているのか理解した。
ちょっと待てっ、ちょっと待て、ちょっと待てー!!!
冷静な振りを保ちながら、頭の中は混乱状態だ。
今までそんなことをしようとしたことも無かったし、させたことも無かった。止めなければと思うけれど、勝る期待感に抗えない。知らず知らずにゴクンと喉が鳴った。
まさか、みぃちゃんが?! あの、みぃちゃんがっ……?!
透明感のある白い手が、布越しにスルリと触れる。
これは何だ? 何かの罰ゲーム? いや、逆に何かのご褒美か?
「あっ…… 」
ビクンと反応したそれに、驚いた海月が動きを止める。
海月の声に少し頭の冷えた理紫は、ふっと笑うと手を伸ばして海月の髪を撫でた。
「落ち着けよ 」
全く誰に言ってんだ、と理紫は心の中で自分に突っ込む。
「そんなことしなくていい、海月には無理だ 」
けれど、海月はふるっと首を振ると、「無理じゃない 」と思い切った様に、浮いたボクサーパンツの隙間から理紫自身に直に触れた。
「おい……っ?! ちょっ、海月?!」
「初めてみたいとかっ、言わないで! 」
そう言うと、緩く立ち上がったそれを躊躇いもなく口に含む。
「……っ!! 」
思わず出てしまいそうな声に、理紫は慌てて手で自分の口を塞いだ。
嘘だろ、コレ。絵面が……。
小さな口では収まらないのか、つるりとした括れから先と鈴口の辺りを懸命にしゃぶる。
「ふ……ん、は、ふ 」
苦し気に、鼻から抜ける色付いた吐息。頬張りながら困った様に上げた顔は、ほんのりと蒸気していた。その表情に、理紫はぐっと息を詰める。
……潤んだ上目遣い、ヤバいっ!
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