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けれど、腕の中の可愛い子は、頑なに首を振る。
「だって、前に言ってたもの。私、聞いたもの 」
「……っ?! そんなこと言う筈が…… 」
とんでもない濡れ衣を着せられそうになって言い返そうとした理紫は、続いた海月の言葉にギクリとする。
「理紫は、優しいけど……っ、やっぱり、そうなんだって、思ったら…… 」
もしかしたら、もしかしなくても、さっき言ったことか?
しかし、あれはそんなつもりで言ったのではない。余りにも無防備だから、少しだけ懲らしめて、自覚して貰おうと思っただけだ。
しかし、焦りながらもふと、海月の言った言葉に引っ掛かった。
「海月、前っていつ? 」
理紫が聞くと、「ずっと前 」と涙声が返ってくる。
「ずっと前? さっきじゃなくて? 」
「さっきも、だけど。もっと前 」
「じゃあ、もっと前っていつ? 」
「……2年生の初め。 私、見たの。 告白してきた女の子に、処女なんて面倒くさいって断ってるところ 」
「2年って…… 」
高校ん時かっ?!
理紫はガックリと肩を落とす。
そんなこと言ったか? そんなのこれっぽっちも覚えてはいないが、当時の自分が碌でもない奴だったとの自覚はある。きっと言ったのだ、処女云々よりも相手をするのがただ単に面倒くさくて。
青臭くて、全くもって格好悪い。だけど、背中に回された手がぎゅっと抱き締め返してくれるから、もう格好悪くてもいいやと理紫は白旗を上げた。
「馬鹿、イキった高校生の戯れ言、真に受けんな 」
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