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「いき……? 」
こっちが覚えてもいないことを、何年も気にしていたのだから、言葉通りに理解することが難しいのだろう。答は只々単純で、1つしかないのに。
「俺さ、自分は処女性とか拘る方じゃないと思ってたんだ。でもね、自分でも驚く位に舞い上がっちゃったんだよ 」
分かり易く言ってやると、海月がパッと……と顔を上げる。潤む大きな目をもっと大きくさせて見詰めてくる海月とは反対に、理紫は柔らかく瞳を細めた。
途端、眩しそうに自分を見つめ返す海月の表情が愛しくてならない。
「みぃちゃんの初めてが俺だって知った時、どんなに嬉しかったか分かる? 」
「う、そ……」
「そんなこと、嘘付いてどうするよ? 」
サラサラと海月の長い髪を指で弄びながら言うと、「嘘よ 」と震える声が返ってきた。
まだ信じようとはしていない海月に、どんだけ信用が無いんだとため息が落ちそうになる。いや信用はされている、されているとは思うが、情けないことに根本的な不安を払拭させることが出来ていないのだ。
でも今、海月の虹彩に映っているのは自分だ。理紫は想いが一方通行だと思っていた時のことを考えると何て幸せなんだろうと思う。
そう、理解らないなら、理解らせてやるまでだ。
「それなら、信じてくれるまで何回でもキスするよ? 」
極上の甘い声で密やかに言うと、ちゅっと口唇を奪う。くん……と海月が喉を鳴らした。
「……そ 」
緩く振った頭を固定して、有言実行な男は微笑みながらキスを重ねる。
「ん……っ 」
抗議をさせない為に繰り返される口付けは、段々に間隔を長くしていく。
色付いていく息遣い。そして、くったりとした海月を腕に抱きながら、絶対に譲れないことをはっきりと意思を込めて囁いた。
「悪いけど俺、最初だけで満足してないからさ 」
最初だけでなく、最後も自分のものにすると案に仄めかす。理紫にとっては、寧ろそっちの方が重要だった。
フットボールしか欲しく無かった自分が、そのフットボールさえ捨ててもいいと思う程に恋い焦がれた。
どんなことをしても、何をしても手に入れようと思った。
その想いと執着心がどこか歪んでいると自覚はあったが、自分でもどうしようもないことだと理紫は身を持って知っていたし、開き直ってもいた。だって、恋と狂気は同義語だろう?
「わた、しも…… 」
きゅっと、華奢な指先がシャツの胸元をしがみつくみたいに掴む。
「初めても、最後も……、全部、理紫がいい 」
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