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避けきれず、そのまま勢いよくぶつかり、思い切り尻餅をついてしまう。二人分の教科書とノートが、床に散らばった。
あぁ、どうしよう。失敗、してしまった。
「いったぁ。……あっ、あ、あぁ! ご、ごめんなさい!」
少女は飛びのいて、恐怖に滲んだ声で謝る。怯えた表情のまま、少女は慌てた様子で落ちたものを拾い集め、深く頭を下げる。
「ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい! どこか、痛いところはないですか? 怪我は、ありませんか? 本当にごめんなさい!」
「平気です。私の方こそ、申し訳ありません」
「そ、そんなっ、よく見てなかった私が悪いんです! 本当にすみません!」
最後に一層深く頭を下げて、少女は走って、私の前からいなくなった。
残された教科書やノート。一つに纏めて、整え、拾い上げる。ごめんなさい、と口の中で呟く。落としたものと、少女に向けて。
立ち上がった瞬間、ざわざわとした音が耳になだれ込んできた。見ると視界の隅に数人の生徒の姿があった。教室の出入口に集まって、話をしていた。
「あーあ、さっきの子、可哀想。生きた心地しないんじゃない?」
「見なかったことにしてあげよー。【先生】に報告するのも手間掛かるし」
「あんなに気を遣わなきゃいけないなんて、正直面倒だよねー」
「てか、なんであの子、学校に来てるわけ? 授業受ける必要ないじゃん」
「どうせ無駄になるのにね」
見ないように、目を合わせないように、聞こえていないふりをして、私はその場から離れた。
*
全ての授業を終え、残るは【教師】からの話となった。あの少女と私がぶつかったことは話題に上がることなく、話は簡潔に終わり、すぐに下校の時間となった。
クラスメイト達が静かにグループごとに集まる中、私一人、教室を出る。途端、教室から賑やかな声が上がった。
楽しそうな声に、思わず足を止めてしまう。けれど、それは変わりない日常で、私は再び足を動かした。
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