【生贄】の少女

2/13
前へ
/460ページ
次へ
 避けきれず、そのまま勢いよくぶつかり、思い切り尻餅をついてしまう。二人分の教科書とノートが、床に散らばった。  あぁ、どうしよう。失敗、してしまった。 「いったぁ。……あっ、あ、あぁ! ご、ごめんなさい!」  少女は飛びのいて、恐怖に滲んだ声で謝る。怯えた表情のまま、少女は慌てた様子で落ちたものを拾い集め、深く頭を下げる。 「ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい! どこか、痛いところはないですか? 怪我は、ありませんか? 本当にごめんなさい!」 「平気です。私の方こそ、申し訳ありません」 「そ、そんなっ、よく見てなかった私が悪いんです! 本当にすみません!」  最後に一層深く頭を下げて、少女は走って、私の前からいなくなった。  残された教科書やノート。一つに纏めて、整え、拾い上げる。ごめんなさい、と口の中で呟く。落としたものと、少女に向けて。  立ち上がった瞬間、ざわざわとした音が耳になだれ込んできた。見ると視界の隅に数人の生徒の姿があった。教室の出入口に集まって、話をしていた。 「あーあ、さっきの子、可哀想。生きた心地しないんじゃない?」 「見なかったことにしてあげよー。【先生】に報告するのも手間掛かるし」 「あんなに気を遣わなきゃいけないなんて、正直面倒だよねー」 「てか、なんであの子、学校に来てるわけ? 授業受ける必要ないじゃん」 「どうせ無駄になるのにね」   見ないように、目を合わせないように、聞こえていないふりをして、私はその場から離れた。 *  全ての授業を終え、残るは【教師】からの話となった。あの少女と私がぶつかったことは話題に上がることなく、話は簡潔に終わり、すぐに下校の時間となった。  クラスメイト達が静かにグループごとに集まる中、私一人、教室を出る。途端、教室から賑やかな声が上がった。  楽しそうな声に、思わず足を止めてしまう。けれど、それは変わりない日常で、私は再び足を動かした。
/460ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加