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昔話
あるところに、【幸運の魔法使い】がいました。
幼い【幸運の魔法使い】は、毎日のように魔法の勉強、魔法の訓練を重ねていました。
『願いを叶え、幸運を運ぶ』という役目を果たすためです。
怒鳴る男。うっとりする程の笑みを見せる女。悲しみに暮れる話す猫。よく笑う楽しそうな若者。
【幸運の魔法使い】は、まだ不慣れな魔法を使って、沢山の人の願いを叶え、幸運を運びました。
時には喜んで、怒られて、哀しんで、楽しんで、幼い【幸運の魔法使い】は沢山の人に囲まれるようになりました。
しかし、ある日、【幸運の魔法使い】は聞いてしまいました。
よく遊んでくれる、ある二人の会話を。
「今回の【幸運の魔法使い】は、扱いやすくていい」
「あぁ。不器用だが、真面目で努力も怠らない」
「良い子だよなぁ。手が掛からなくて、幸運を運ぶ才能もあって」
「魔力量も多い。いずれ、この国にとって便利な存在になるだろう」
幼いながらも、賢い【幸運の魔法使い】はそれだけで分かってしまいました。
沢山の人に囲まれるのは、特別な役職である【幸運の魔法使い】だから、と。
自分のことが大好きで、一緒にいるのが楽しいからではない、と。
屋敷の中を一人彷徨い、【幸運の魔法使い】は悲しい現実から逃げ出そうとしました。
考えて考えて、楽しいことを思い出そうとしても、どうしてもあの会話が耳から離れませんでした。
絶望の底にいる【幸運の魔法使い】の前に、ある【勇者】が現れました。
「君を助けてあげる。望みはなぁに?」
差し伸べられた手を取り、【幸運の魔法使い】は虚ろな目で願いました。
雨が降る中、少年は【幸運の魔法使い】である兄を見つけました。
ぐったりと倒れた【幸運の魔法使い】の側には、真っ赤な林檎のガラス細工が一つと、全く濡れていないカードが一つ、置いてありました。
まだ文字があまり読めない少年は、二人の兄を呼びに行きました。
一か月後、まだ幼い【幸運の魔法使い】は、森の中でたった一人で暮らすことになりました。
それから十年の月日が経ちました。
【幸運の魔法使い】は、とても幸せな夢と、とても恐ろしい悪夢を見るようになっていました。
悪夢を見るたびに、【幸運の魔法使い】は涙を流していましたが、毎夜、きちんと眠りにつきました。
とても幸せな夢が、【幸運の魔法使い】の生きる希望となっていたからです。
次第に、【幸運の魔法使い】は星に願うようになりました。
とても幸せな夢の中で出会う女の子に会わせてください、と。
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