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そんな宝物らを失うこともなかった。
どこかに置き忘れることも、誰かに盗られることも、食べたり転んだりして手放すこともなかったからだ。
それは、当たり前の楽しい世界だった。ずっとここにいたくて、延々が過ぎた。
「あの子をください」
この瞬間も「時間が来た」子を迎えに来る小さな大人たちがいた。
いつも「いいですよ」とほほ笑む金色の大きな大人が、「それはできません」と言ったので、私は頭を上げた。こんなことは、初めてだったからだ。
他の小さな大人たちは、次々と赤ちゃんを連れていつものように消えた。
ある一人の赤ちゃんは、男性の小さな大人の肩越しに、ぶんぶんと上下に手を振ってくる。
いつも水色の花を持っていた男の子。
私も手を振り返した。その腕に、彼を不憫に思う気持ちが混じった。
「どうしても、あの子が良いんです」
女性の小さな大人は、食い下がった。
その隣の男性の小さな大人は、困った様子で立ちつくしている。
そして私は気がついた。彼女がこちらを指さしている。
大きな大人が、金に輝く手で私を抱き上げた。温かかった。そのままゆっくりと、小さな大人たちに近づいて行く。
ここ以外の空間を、世界を知りたくなかった。
それに応えるように、大きな大人の手が少しきつく、より心地よくなる。
小さな大人の女性の手が、私の頬に触れた。そしてその手はニ本になり、私の身体は大きな大人から小さな大人の彼女の中へと移った。
温かい。
彼女の放つ鈍い光が、鋭く澄み始める。
それぞれの拳から、てんとう虫と花が光の塵になって消えた。
驚いて、大きな大人の方を見た。大きな大人を包む光も、より鋭く大きくなる。
大きな大人は、私に手を振った。私も振り返した。振りたいように振れなくて、上下に振り回した。
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