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6話:レッスンは続く
晴れて恋人ができました! 僕はもの凄く浮かれていて、人生最高の春気分で嬉しくて眠れなくて……熱が出ました。
だって、初めての恋人だから。しかも凄く好みの人だったし、優しいし、嬉しいし。
どうしよう、つり合うのかな? こんな僕でいいのかな?
少し悩みはするけれど、僕は前みたいに俯かなかった。だって、頑張ろうっていう気持ちのほうが強いから。
土曜日の秘密レッスンはそのままお泊まりデートの日になった。そして僕は一ヶ月の目標体重2㎏を無事に落とした。
「凄い! ランチビュッフェなんて、いいんですか?」
土曜日のお楽しみデートで、僕達はランチビュッフェにきている。人気のやつで、デザートも充実している。
キラキラした目で箕輪さんを見ると、彼はニコニコして頷いた。
「相沢さん、ダイエット頑張っていますしこのくらいは。それに最近はダイエットでも解禁日を作る人が多いんですよ。この日だけは好きな物を好きなだけ食べてストレスを減らすんです。我慢だけじゃ辛くて続かないので」
「なるほど」
でも僕はそんなに辛いだなんて思わなかった。最初は大変だったけれど、箕輪さんが側にいてアドバイスしてくれて、細かくケアしてくれたから。
今ではお腹がだいぶ凹んだ。箕輪さんみたいに割れてないし、触ると柔らかいけれどその奥は硬い気がする。少なくともズボンの上にお腹が乗っているなんてことはなくなった。
「食べましょう」
「はい!」
嬉しさと、ふわふわして足が地についていない気持ちのまま、僕は久しぶりに好きなものを好きなだけ皿に乗せた。
それをテーブルに運んで頬張ると確かに幸せだ。ローストビーフも美味しいし、ふわふわのオムレツも美味しい。
「う~ん、美味しい」
「ふふっ」
向かい側に座る箕輪さんも皿に沢山乗せている。主に肉だった。
凄く優しくて嬉しそうな顔で見られると、なんだか恥ずかしい。自然と耳の辺りが熱くなってくる。
「あの……」
「あぁ、すみません。美味しそうに食べている相沢さんを見ているの、凄く好きなんです」
「えっ」
なにそれ……恥ずかしい、けど……嬉しい。
「食べる事って、幸せだよなって思うんです。痩せるお手伝いをするのが仕事ですけれどね。でも、俺個人は沢山食べて欲しいと思うんですよね。矛盾していますが」
「……僕、美味しそうに食べてますか?」
「はい、とても」
そういえば昔、「お前が食べてるものは全部美味しそうに見える」とか言われたっけ。
恥ずかしいけれど、少し嬉しくもある。
「箕輪さんも、食べて下さいね」
「はい、勿論」
そう言って食べ始める箕輪さんはとてもワイルドだ。大きな口で肉を頬張る姿とか、かっこいい。
「あの……」
「え?」
「……あまり、見ないでください。恥ずかしい、です」
「! ふふふっ」
顔を赤くする箕輪さんが、ちょっと可愛く見えた。
久しぶりにお腹いっぱい食べたけれど、前よりも食べられなくなっていた。箕輪さんは「これが今の胃の大きさなんですよ」と言ってくれた。それに不思議と、甘い物への執着は薄れていた。
「この後はどうしましょう? のんびり散歩でもしますか?」
「そうですね。腹ごなしもしたいです。久しぶりにお腹が重たい」
「いいことですね。では散歩して、帰りに軽く夕飯の買い物をしましょう」
「はい」
「……今日は泊まりで、いいんですよね?」
聞かれて、ドキドキしながら僕は頷いた。そのつもりで既に箕輪さんの家に荷物も置いたし、色々準備もしてきたんだから。
歩きながら今日の夕飯を話し合った結果、今日は湯豆腐にする事にした。夜は少し冷えるし、お腹いっぱい食べたから夜は軽めにとなった。
スーパーで豆腐とネギときのこを買い込んで箕輪さんの家に。二人並んで料理もできて、食卓テーブルの真ん中で美味しそうな湯豆腐がぷかぷか浮いている。〆はうどんにした。
「いただきます」
二人揃って食べる食事は、とても美味しいご馳走だった。
ご飯も食べてのんびりとテレビを見ながら過ごしている。箕輪さんは色々してくれて少し心苦しかった。僕もしたいと言ったら、「次は」と言われてしまった。
ちょっとだけドキドキして落ち着かなくなってきた。大丈夫、お腹の中も綺麗にしてきた。それに少し慣してきたし。汗は……かいたかも。他も綺麗にしておかないと。
「相沢さん、お風呂どうぞ」
「へ!」
「え?」
突然だったから変な声が出た。それに箕輪さんは驚いたみたいだった。まずい、緊張してるのきっとバレた。
箕輪さんが僕の側に来て膝をつく。そしてやんわりと笑った。
「緊張してますよね」
「……ですね」
「怖いなら、別に急ぎません。許してくれるところまでで」
「そんな!」
確かに色々聞くけれど。最初は痛いとか、苦しいとか。でも……。
「逃げたくありません」
「相沢さん」
「準備もしてきましたし、覚悟も一応してきました。だから! だから、今日がいいです」
逃げちゃいけない時もある。大人だから知っている。そういう時に逃げると必ず後悔するんだって、僕はもう知っているから。
箕輪さんの手が僕の頬に触れて、その手が肩へと移り、優しく覆うように抱きしめてくれる。この中はいつも温かくてほっとする。
「俺も、貴方が欲しいです」
「!」
心臓が強く鳴った。求められる事が凄く嬉しかった。
「先、お風呂入ってください。でも、あまり長湯しないように。終わったら寝室で、待っていて貰えますか?」
「はい」
僕はとうとう、今日、箕輪さんのものになるんだ。
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