★32 ツイビト

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★32 ツイビト

光の腕の中で眠ってしまった僕は、頬をくすぐる感覚に目を開けた。 「……ん」 「目が覚めたか?」 「う、うん」 「やるぞ、ツイビト式!」 (は?) 一瞬、なんの話かと思う。 見渡せば、そこはツイビト式の花園。 その中央に寝かされていたようだ。 「続きだよ。続き」 「まだ諦めてなかったのかよ」 「なんで諦める必要がある? お前、男もイケんだろ」 「はぁ?」 言われて、ようやく気づく。 (守との事を言ってんのかな? 光は) 「誰も、男好きとは言ってない!」 「でも、イケんならいいじゃん」 「はー?」 「……光がするなら、ナナもしたい……」 どんどん話がおかしくなってってる気がする。 「守、助けろよ」 少し離れた場所に立っていた守を見ると、羨まし気にしてるではないか。 「……お前な、こういう時は」 「ボクも仲間に入れて欲しいです。……けど」 そんな光景が可笑しくなって僕は笑う。 「いーよ、いーよ! もう! 三人とするよ、ツイビト式!」 その言葉に、三人が顔を見合わせたので、ゴクリと唾を飲む。 「じゃあ、俺が一番な!」 「ナナは二番……」 「ボクは三番で」 「……」 お前ら、それでいーのかと思うが、きっと今は、これでいいのだろう。 「雫、愛してる」 「僕も愛してるよ。光」 仮面をつけての誓い、仮面を外して見つめ合って、そのまま目を閉じずに、そっと口づける。 光とナナのツイビト式はあんなに嫌だったのに、いざ自分が光としてみると、とても神聖なものに思えた。 (僕には触れるだけなんだな……) 「次はナナと……」 ずっとナナが好きだった。 「ナナ、大好きだよ」 「ナナも雫が好き」 ギューッと抱きしめ合ってする誓いの口づけの尊さといったら……。 切なくて愛しくて、今にも昇天してしまいそうだ。 「雫、愛しています」 「……守、ずっと傍にいろよ。愛してる」 てっきり触れるだけの口づけだと油断してたら、一度触れて、すぐ離れたあと、下唇を噛まれた。 「……ふぁっ!?」 僕は慌てて守を振り払う。 守はペロリと唇を舐めると、もう一度してこようとした。 「地獄に落とすぞ。守!」 「……やったもの勝ちですよ」 「ナナもするー!」 「お前らな……」 守を追いかけまわす光と、潤んだ瞳で僕を見上げるナナ。 「わかったよ。ナナ」 ナナの下唇を噛むと、「あー!」と光が叫び、近づいてくる。 僕は笑いが止まらなくて、こんな日々が今あることを幸せに思った。 いつかは誰かを選ばなきゃいけないけど、今は……。 ふたりの家族とナナと一緒がいい。 end
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