絶滅前夜

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 翌日の夕方、学生たちは東京に帰し、渡は宮下、松田と一緒にホテルのラウンジでアイスコーヒーを飲みながら遠山を待っていた。  やがて遠山がホテルに戻って来た。海上保安庁から紹介された地元の大学の施設であの怪生物を解剖してきたのだ。  同じ席につくと、遠山は真剣な表情で説明した。 「あれはおそらくアンモナイトの一種です。殻の直径が1.8メートル、触手の長さ1.5メートル。タコとイカのハイブリッドのような触手です」  渡が目を吊り上げて訊く。 「アンモナイトは恐竜とともに絶滅したんじゃなかったのか?」 「生き残りがいたんでしょうね。絶滅したと信じられていたシーラカンスという古代魚が発見された例もありますし。それより、やつの消化器官を調べたら驚くべき事が分かりました。やつはプラスチックを食っていました。しかも、消化吸収できるようです」  宮下が驚いて言う。 「プラスチックを食べる? 食べられる物なんですか?」 「プラスチックは有機物です。たいていの動物は消化できませんが、やつはそれが出来るようになったんでしょう」 「ですが、先日の事故の生存者の証言とサイズが合わない。船の甲板の上の170センチ以上の高さだったというから、触手は最低3メートルの長さだったはず」 「それとは違う個体なんでしょう」  松田が、えっ? と声を上げた。 「一匹ではないという事ですか?」 「むしろ、一匹だけという方が不自然だ。もっと大きな個体が複数いると思った方が自然だろう」  渡があごひげをしごきながら言う。 「だが、プラスチックの餌なんてどこにある?」  遠山が言う。 「海洋プラスチックごみかもしれません。海に流出した量は1億トン以上と言われている。むしろ、プラスチックごみを餌にするようになった結果、巨大化したのかも」  宮下がまた訊く。 「でも、なぜ突然この海域に現れたんでしょう?」 「あくまで推測ですが」  そう言って遠山はカバンからタブレットを取り出し、いくつかの水中写真を見せた。 「サンゴが大量に枯死していますよね、ここ数年」  渡が画像をのぞき込みながら言う。 「地球温暖化や、海洋汚染のせいかもしれんとニュースで見た事があるな」  遠山は海図を広げて、ペンで青い印を海岸線に描いた。 「宮下警部補からもらった事故の地点と、サンゴの大量枯死の地点を付き合わせてみました。例えば、こことここ」  遠山が指で示す、赤い印と青い印の組み合わせを見ながら、あとの3人が息を呑む。遠山が続ける。 「サンゴの大量枯死が起きているその沿岸に、船の事故の地点が一致している。サンゴも生物です。サンゴの活動によって発生する何らかの化学物質があり、それがあのアンモナイトの繁殖、成長を抑制していたとしたら?」  渡が右の拳で左の掌をポンと叩く。 「サンゴが無くなった事でアンモナイトが異常に成長し、プラスチックごみを食料にした事で、さらに巨大化した。そういうわけか」  宮下が渡と遠山に言う。 「先生がた、また協力をお願いします。あれのもっと巨大なやつが陸に上がって人を襲い始める危険があります」  松田が言う。 「自分もお手伝いします。隊に報告したところ、このまま現地に留まって、自衛隊として情報収集をするよう、命令を受けております」
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