絶滅前夜

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 その夜、松田が宮下の部屋のドアを何度も叩いた。あわててガウンを羽織った宮下がドアを開けると、自衛隊の礼服姿の松田が興奮した口調で言う。 「大変です。那覇港に停泊中のクルーズ船が、巨大アンモナイトに襲撃されています」 「やっぱり、もっと大きな別の個体がいたのね!」 「自衛隊のヘリがこちらに向かっています。渡先生と遠山先生には自分が知らせに行きますので、警部補もご同行願えますか?」 「分かりました。ホテルのロビーで集合しましょう」  10分後、ホテルの前庭に着陸した人員輸送用ヘリに、渡、遠山、宮下と松田が乗り込んだ。ヘリは那覇港の上空に向かい、遠山が赤外線暗視機能付きの双眼鏡でその光景を観察する。  桟橋から離れた位置に停泊している全長240メートルの大型クルーズ船に、海面から伸びた巨大な触手が何十本も群がっている。  船自体の照明と、周りの海上保安庁巡視船のサーチライトに照らされた船上では、悲鳴を上げて逃げ惑う多数の乗客の姿が見えた。  クルーズ船の船首、中央、船尾の3か所にからみついた触手がさらに上に伸び、殻の部分が海面から現れる。双眼鏡を目に当てた遠山がつぶやく。 「3匹いる。殻の直径が20メートル、触手が10メートルとして、全長30メートルはある」  触手はあちこちに伸びて広がり、そのうちいくつかは乗客の体を絡め取っていた。  巡視船は船の乗客を誤射する事を恐れて発砲出来ないでいた。やがて、デッキのプラスチック製の椅子などの備品と、数十人の乗客の体を触手の先にからめとったまま、巨大アンモナイトはひとつ、またひとつと暗い海面に沈んで行く。 「一番恐れていた事態が起きてしまった」  悔しそうに宮下がつぶやく。遠山が普段と一変した鋭い表情で松田に訊いた。 「海上自衛隊が使う、高性能の水中音響探知機を取り寄せる事はできますか?」  松田はすかさず答えた。 「ただちに、統合幕僚監部に申請いたします!」
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