絶滅前夜

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 二日後の早朝、夜明け前、4人は海上保安庁の大型巡視船の甲板にいた。小型エンジン付きのゴムボートが側の海面に浮いていて、ウェットスーツを着た松田がボートに乗り込んだ。  アタッシュケースほどの大きさの機械からコードが伸び、その先に海中に差し込む音響探知機が付いている。  巡視船の上部に取り付けられた大型のライトが一斉に点灯し、松田は探知機を水中に垂らした。  甲板の縁に手をかけてその様子を見守る渡が遠山に訊いた。 「やつらが光に反応して寄って来るというのは確かなのか?」  遠山は腕組みしながら答える。 「確証はありませんが、イカ釣り漁船がよく使う方法です。それに、今までに襲われた漁船も夜明け前に操業している時に襲われているし、あのクルーズ船も煌々と照明をつけていましたよね。可能性は高いと思います」  やがて松田が機械の本体のスクリーンに映る探査結果を見つめて、船上の3人に呼び掛けた。 「それらしい反応が出ました。ひと、ふた、みつ……3匹来たようです」  徐々に近づいて来る巨大な物体の反応は、巡視船の水中レーダーでも捕らえられた。乗組員にそう告げられた宮下が松田に向かって叫ぶ。 「松田さん、早くこっちに上がって! もうすぐ近くまで来てる」  松田は巡視船から伸びているロープを体に巻き付けたが、まだ音響探知機のセンサーを水中に差し込んだまま、その場を動こうとしない。 「もう少し、あともう少しなんだ。やつらの出す音響パターンさえ記録できれば」  松田が乗っているゴムボートの下に巨大な影がライトで映し出される。それを見た遠山も叫んだ。 「松田君、無理するな! 危険だ!」  松田はそれでもセンサーの先を水中に差し込んだまま、機械本体のスクリーンを見つめている。 「2匹分は取れた。もう少し」  人間の胴体ほどの太さがある褐色の触手が、一本また一本とゴムボートの周囲に柱のように立ち昇る。  機械の本体のスクリーン上の赤い棒が「100%」を示した。松田は機械のコードを引き抜き、本体を胸に抱えてボートから飛び出し、海面に飛び込んだ。  松田の体に巻き付けてあるロープが船上の巻き取り機械で引っ張られ、松田の体は巡視船の船体の下へ移動した。松田は機械本体を左腕で抱えて、船体の壁をよじ登った。  巡視船はエンジンを始動させ、全速力でその場を離れた。やがてヘリコプターが上空に現れ、巡視船のヘリポート部分に着艦する。  松田、宮下、渡、遠山がヘリに乗り込み、ヘリはただちに上昇した。10分ほど飛ぶと、大型の駆逐艦型の船が見えて来た。  ヘリの窓越しにそれを見た宮下が松田に訊く。 「あれは護衛艦?」  松田がうなずく。 「はい、海上自衛隊の協力を得ております」
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