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翌日には事件の担当者だという少年課の刑事が二人でやってきた。
「お前が北 龍矢だな、身体の不自由な青年を一方的にいたぶるのは楽しかったか」
尋問はのっけからこの調子だ、まぁ仕方ないけど。
俺は障害者を半殺しにした凶悪なロクデナシだからな。
「別に楽しくはありませんでした」
時任さんに言われて敬語を使うようにしたけど、これ逆効果じゃないだろうか。却ってすげぇ嫌味に聞こえるんだけど。
刑事たちは顔を見合わせてるし。
「今日はここで簡単な調書を取らせてもらう、身体を起こすぞ」
「はい」
俺の怪我は大した物ではないと思われているらしい。ベッドに付いてるリモコンで強引に角度が付けられる。さすがに全身が痛んでうっとなった。
「大丈夫か?」
「は…い」
本当はかなりキツイ、今朝になってもまだ熱がある。頭痛もまだ酷い。
「今井くんは全身のあちこちに骨折があってベッド上で絶対安静だ、それに比べればこいつの方はかすり傷でしょ。今井くんは身体に力が入らず、日常生活も不自由な身障者だと聞いているし」
そういう事になっているわけだ、あのゴミ野郎。バットを振り廻して俺を殴って逃げたのはどこのどいつだ?
若い方の刑事が置かれていたパイプ椅子にドカッと座った。
「さっさと始めましょうや、時間が勿体ない」
そっちが記録役でこっちの年配の刑事が尋問官か。とりあえず時任さんに言われた通り丁寧に受け答えれば良いんだ。
「じゃあ北 龍矢くん、生年月日と現住所を」
「はい、XX年4月14日です。住所は…」
ちょっと頭痛がひどくなってきた、だが我慢だ。その他にも家族構成や学校の事なども色々聞かれた。
どの質問にも自分なりに丁寧に答える。
「では次に動機を聞こう、なぜあんな事をやったんだ?君に殺意はあったのかを聞きたい」
殺意…殺意は確実にあった。今でもあいつが生きていると聞いて悔しくて仕方がない。
「自分は…あの男が大嫌いでした。あの家族もみんな。殺意…は…」
だが母の話を聞いた後で、その事を警察に告げることが果たして正しいことなのか躊躇している。
「北くん?」
殺意は…うぐっ!!
「ぐはぁ!!」
また急に激しい頭痛が襲ってきた、俺は胃の底から込み上げる吐き気に耐えきれずに思い切り吐いてしまった。
「おいっ!北くん!北くん!」
「ぐ…ぐぁ…!」
刑事の手によってナースコールが押された。俺は尚も吐き続ける。元より何も食べていないから胃液を全部吐き出しても、まだ吐き気が治まらない。
「なになさってるんですか!!」
目の端に数人の看護師だ、森さんもいる。
「この患者さんは頭部に強い衝撃を受けているんですよ!!絶対安静だと警察にも伝えてあるでしょう!!ベッドを動かすなとそこに書いてあるでしょう!!この子を殺す気ですか!?」
確かにベッドの手摺にその旨を書いたプレートがあった。
だが俺の怪我が酷くないと思い込んでる警察は、それを黙殺したか眼に入らなかったか。
「部屋を出て行って!!今すぐ!!」
刑事達が病室を追い出される。
「すいません森さん…布団を汚した…」
「なに言ってるの!良いから早く横になって」
彼女たちがテキパキと汚れた布団や俺の衣服を交換していく。顔や身体もきれいに拭いてくれた。
「すいません…」
「良いのよ、警察の方に診断が伝わってないのかしら。ひどいわ、こんな子供に」
それは俺が暴行事件の犯人だから仕方がない。
「何やってんだあんたら!!」
廊下から聞こえるこの声は時任さん…今日も来てくれたのか。
「山室さん、あんた程のベテランが一体なにをやって…!!」
「静かになさって下さい!!」
汚れ物を持って出ていった森さん達に時任さんが怒られている声が聞こえた。あの人、声がデカくて響くもんな。
俺の方はまっすぐ横になっていれば大分違う、きっともう少しすれば落ち着くと思う。
時任さん…入ってこないな。
会いたいのにな…
俺の話をちゃんと聞いてくれるあの時任大河という弁護士の来訪を、俺はいつの間にか心待ちにするようになっていた。
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