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俺の入院期間は、結局2ヶ月近くになった。
あの事件は二月半ばの事だったから、俺は復学と同時に進級する事になるらしい。
森さんは俺に対する訴えが取り下げられた事をとても喜んでくれたが、やはり俺が事件を起こしたことは事実なので。
もっと思慮深く、涼子が誇れる様な息子におなりなさいと言葉を贈られた。
「今井の怪我な、色々オーバーに訴えてたけど実際は肋骨数本と右前腕の尺骨が1本折れていたくらいだ。骨折だけなら頭部挫創と頭蓋骨にヒビが入った龍矢のほうが酷かったよ」
鉄パイプvsバッドだ。あいつは自分を右手で庇っていたからな。全く頑丈なヤツだ。
「けどな、睾丸破裂の方が地獄だったらしいぞ。泡吹いてひっくり返ってたのはそのせいだ。あれは治療も酷いらしい、ざまぁみろだ。そのくらい喰らってもあの男にはバチにもならん」
「はい」
幼い悠里がされた事の償いには全然ならない。
「よし、忘れ物はないな」
「はい」
退院のその日、迎えに来てくれた時任さんの車で自分の家に帰った。
家には悠里が待っているという。
俺が病院では会いたくないと言ったから、悠里に会うのはあの母ちゃんの葬儀の夜以来だ。
きっと怒っているんだろうな、会うのが怖いくらいだ。
でも、会いたい。
「学校側には事件を起こした時も、訴えが取り下げられた時も逐一報告は行っている。俺もこの間学校に行ってきたが大分困惑はしていた。龍矢は特に目立つ所のない普通の生徒だったのにとか言われたよ。俺からは今までと変わリなく接して下さいと伝えた」
「はい、ありがとうございます」
きっと俺を見る目が変わってるだろうけど、それは仕方ない。
「お前に雑音は伝えたくなかったから黙っていたが、世間的に結構な騒ぎだった。ローカルTV局では事件概要が放送されているし、学校にも問い合わせが殺到した。勿論俺からTV局に抗議は行っているけどな」
「はい」
「訴えが取り下げられた後も様々な憶測が流れてる、今度は被害者だった今井の方に関心が移ったのはありがたい。疾患に対する詐欺疑惑や障害者手帳を不正取得の疑い、ネットを使っての様々な詐欺疑惑まで出てきた。既にいくつものアカウントが特定されている、ネット民ってヤツは優秀なんだな」
そちらに関しての知識は俺はほぼ皆無だ。
本当に俺は色々知らないことが多過ぎる。もっと勉強しなきゃならない。
「とにかくお前は何を言われてもしらばっくれろ、一応表沙汰にはなっていないし実名は一部にバレているが事件自体は無いことになっている。人の噂も七十五日って言うから頑張れ」
「分かりました」
「学校関係の身元引受人も全部俺にしてあるからな。龍矢も悠里も何かあったら必ず俺に連絡するんだぞ」
「はい」
悠里の中学校入学の準備は時任さんと奥さんがやってくれたと聞いた、制服も作ってくれたという。
「ありがとうございます、時任さん」
「ああ龍矢、学校に戻っても言葉使いは常に正しく丁寧にだぞ。もっと敬語の使い方も勉強しておけよ。お前は北家の世帯主なんだからな」
「はい」
「お前がちゃんとしないと亡くなったお前達の母ちゃんが悲しむんだ。それはお前が誰よりも分かっているはずだ」
「はい、時任さん」
本当に俺がしっかりしなきゃならないんだ。
見守ってくれている母ちゃんにも、これ以上の心配は掛けられない。
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