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家に着いて緊張しながら玄関のドアを開けた。
これも悠里に言わなけりゃならないな、家の鍵はいつも掛けておくようにしろって。相手を確認してから開けるんだと。
今まで母ちゃんにも随分と言われていたけど、俺も悠里もどこかで緩んでいた。これからは一切妥協無しだ。
「お兄ちゃんお帰りなさい!」
いきなり泣き付かれるのではないかと思った俺の予想は大きく外れた、悠里は笑顔だったのだ。
悠里はまっさらなセーラー服を着て玄関まで小走りで来た。思わずその場で固まる俺。
「おお悠里!制服が似合うじゃないか!!」
俺の後ろに立っていた時任さんから声が上がる。
「エヘ、ありがとうございます!時任さんとお兄ちゃんに見せたくて着替えて待ってました!!」
俺達の前でクルッと回って見せる悠里、新しい制服が本当に嬉しそうだった。
その後、部屋で悠里の淹れたお茶を飲んだ時任さんは、また来るよと言って帰って行った。
部屋着に着替えてからカップを洗った悠里が、俺の前に来た。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「ちゃんとここに座って」
あ、やっぱり怒っている。なんかやけに落ち着いていると思ったけど、それは時任さん向けか。
俺は悠里に言われた通りに目の前に正座した。そしたらいきなり
”バンッ!!”
「いて!!」
正座の両膝を思い切り平手で叩かれた。続いて更に両手でバシバシと殴られる。もう本当に連続で手加減なし。
「ゆ、悠里ちょっと…!」
”バシバシバシバシッ!!!”
ダメだ、止まらない。かなり痛い、これじゃ悠里の手も……!
思わずその手を掴んで止めた。
「悠里分かったからっ!」
何をだ。とりあえず悠里が怒ってるのは分かっているけど、顔が伏せられていて見えない。
「う…!」
「悠里」
「うわ〜〜〜ん!!うわぁん…!!お兄ちゃんのバカッ!!アンポンタンッ!!わ〜ぁん…!!」
悠里の手を掴んでいた自分の手を緩める。悠里は俺の膝を抱え込んでわんわん泣き出した。
「わぁん!!わぁぁ…!!」
「ごめんな…ごめんな悠里」
その震える背中をギュッと抱く。
もう二度と妹をこんな風に泣かせたくない。
「ごめんな」
繰り返し繰り返し、その言葉だけを言い続けるしか無かった俺は、本当にどうしようもないバカ兄だった。
あとで聞いたら、最初に俺に会って泣いてしまうと時任さんが心配してしまうから。そしたら俺と暮らせなくなるかもと心配したと。
だからセーラー服で気合いを入れたのだと言っていた。
悠里は悠里なりに、このふた月で成長していたのだ。
俺だけこの場に立ち止まってはいられない。
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