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中学一年生の時にその母親が死んだ。
死因は血液の癌、白血病だったという。
「お兄ちゃん…」
不安そうな顔で俺の腕にギュッと掴まる妹。俺はその手をしっかりと握った。
「大丈夫だ、兄ちゃんがいるからな」
俺は葬儀場の小さな部屋の、母の棺の前で悠里の肩を抱く。甘えん坊のこの妹を、今日からは俺が一人で護っていかなければならない。
俺の母親はとてもしっかりした人だった。
生前自分の余命が分かると同時に、残される俺達兄妹の事を考えてくれた。
俺達に入るであろう自分の生命保険の管理をちゃんとした法律事務所の弁護士に頼んでいたり、死後の葬祭場の手配も自分でやっていたりしていた。
看護師だった母親は、結局自分の職場だった総合病院で亡くなった。
その時に母の親友だったという同僚看護師の森さんが、親戚や連絡しなければならない機関への手続きを全部やってくれていた。
この葬儀は家族葬だ。参列者は母の親友だったその森さんと、親戚で唯一付き合いのあった遠縁の叔父が一人だけだ。その二人が火葬が終わって自宅に遺骨を持ち帰る最後まで居てくれるという。
「龍矢、ちょっと」
叔父さんに呼ばれ部屋の外に出る。
「今井の叔父は来たか?」
「え?来てないです」
今井の叔父?子供の頃、隣に住んでいた記憶がある。悠里が幼い頃に預けられていた家だ。
「そうか、わしが連絡をしたのにやはり来んか。全くあいつは…あの時あれ程の事を悠里にしておきながら、死人に口なしとしらばっくれるつもりか。せめてお前の母に線香のひとつでもあげるのが筋だろうに」
え…?
「叔父さん、それ…!」
子供の頃から漠然と感じていた、悠里に関する数々の疑問がその時に明らかになった。
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