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「にーに、にーに!」
いつも俺を追いかけ廻す愛しい存在だった。
幼い俺は、留守がちな自分の母親から悠里にはちゃんと優しくするようにといつも言われていた。
悠里が自分の双子の妹なのは知っていたが、なぜ悠里だけが隣の家に住んでいるのかは分からなかった。
それでも可愛かった。
俺がどこに行ってもついてくる悠里。幼稚園も一緒に通って、夕方になり隣のおばさんが迎えにくる度に帰りたくないと、何度も駄々をこねていた記憶がある。
「にーにあそぼ、ゆーりとあそぼ!」
そういう妹がいつだって可愛いくて、俺はいつも悠里と一緒に居た。
いきなりの母の仕事の都合で俺の家が引っ越す事になっても、それでも忘れた事など無かった。
大事な妹だ、ずっと元気で幸せにしていると信じていた。
それが…
「今井の叔父は生まれたばかりの悠里を半ば無理やり引き取ったんだ。女手ひとつで子供二人は大変だろうとか言ってな、俺はあそこの家が引きこもりの息子を持て余してるのに変だと思っていた」
母の従兄弟だというその叔父は言っていた、今井も母方の親戚だという。
だが俺の母は「女の子が欲しかった、絶対可愛がるから!」という今井夫婦の言葉を信じた。片親の家で育つよりも、悠里が幸せになるかも知れないと。
泣く泣く悠里を手放した母の想いは、あっさり裏切られたのだ。
悠里に里心がつくといけないからと、引越しの後には一切会いに行かなかった事を母は死ぬまで後悔していたという。
「これでいいか」
途中の工事現場で鉄パイプを拾った。俺の手にしっくりとくる重さだ、丁度いいヤツがあって良かった。
あの家がどこにあるのかちゃんと覚えている。
鉄パイプを背負って自転車で移動した。
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