act.1 僕らの時代

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   朝、昂輝はアメリカに帰って行った。  そして夕食後の今から父ちゃん達も大阪に帰る。父ちゃんはその為に昼頃からずっと昼寝をしていた。 「ありがとね拓海、結局全部積み込んでもらっちゃったわ」  ばあちゃんが最後の荷物を持ってきた。バスケットにおにぎり数個が入っている物だ。  きっと父ちゃんの夜食だ、父ちゃんはほぼ全部の行程を一人で走り切るつもりだ。母ちゃんと運転を交代するつもりは一切無い。 「母ちゃん達は?」 「美音に引っ付いてるわ、又しばらく会えないからね」 「ああ」  いつも仲が良かった家族だ、別れ難いのは分かる。こっちも真也が朝から俺やじいちゃんの周りをちょろちょろしていたし。  今も作業中のハイエースの近くで、邪魔にならないようにこっちを見ている。 「真也も忘れ物をするなよ」  声を掛けると真也がトコトコと俺に寄ってきた。 「拓兄ちゃん」 「なんだ?」  小さな真也と目線を合わせてしゃがむ。 「秋には何を植えればいいの?」  あの大阪の真也の畑か、夏野菜が終わりだからか。 「ほうれん草かな、俺が一緒なら白菜とか大根も良いんだけど今年は無理するな」  小さな真也に無理なく出来るのはそっちだ、夏野菜を殆ど一人であそこまで作ったのにはびっくりしたけど。 「来年はここで一緒に色々作ろう、真也はみかんとスイカがいいんだっけ?」  確かそう言っていた、ひかりに食べさせたいって。 「うん、ひかりちゃんと食べたい。でも兄ちゃんと作るならなんでも楽しい」 「ん?」 「兄ちゃんとまたいっぱい色々作る。だから待ってて、ぼくがいっぱい手伝うから待っててね」 「ああ」  大阪でもいつも俺を手伝ってくれていた真也。それが真也の中でもいい思い出で、また俺と一緒にそれができる事を楽しみにしているのなら嬉しい。 「二人ともここにいたのかい」  家からじいちゃんが出てきた。手には懐中電灯だ、もう足元が薄暗い。 「真ちゃん、お母さんが呼んでるよ。もうそろそろ行くよって」 「じいちゃん」  真也はじいちゃんの膝にパフっとくっついた。 「真ちゃん?」 「じいちゃんも待ってて、ぼくが来るの待っててね。また一緒に畑するから」  じいちゃんもしゃがんで真也を抱き締める。 「当たり前だよ、おじいちゃんも真ちゃんがここに来るのをずっと楽しみにしてるからね」 「うん」  泣き虫末っ子の真也がもう泣かなくなっていた。じいちゃんに抱きついていてもずっと笑顔でいる。  真也はちゃんと兄ちゃんになっているんだ。 「ここに真ちゃんの畑も作ろうね、そこになにを植えようか」 「スイカとみかんだってさ、じいちゃん」 「うん、ひかりちゃんと食べるの」 「そうなんだ、楽しみだねぇ」  俺とじいちゃんは左右から真也と手を繋いで家に戻った。  
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