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脩介は動けなかった。確信した。あの女は現実じゃない。
「幽霊……」
声に出してそう言ったとき、誰かが耳元で囁いたような気がした。脩介はびくりと体を震わせ、後ろを振り向いた。誰もいない。
「嘘だろ……なんで、俺」
足もとから立ち昇ってくる震えを、抑えることができない、と同時に、脩介は何か、妙な気持ちになった。
翌日は、わざと外で時間を潰して、例の時間を過ぎた後に帰った。部屋に入ると、ちょうど夜中の一時。脩介は、そのまま部屋の明かりをつけずに、窓の前に佇んだ。
窓の外は、わずかな星と街灯の光で、ぼんやり明るい。こうしてみると、別世界みたいだ。その中に、また女が落ちてくるんじゃないかと思った。脩介の帰りを、待っていたかのように。
けれど女は現れなかった。明かりのスイッチを入れた。たちまち部屋は、明るい日常へと戻る。
脩介は息を吐いた。〇時二十三分を過ぎると、落ちる女は現れないらしい。
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