落ちる女

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落ちていく女の顔が、脩介の目の高さと同じになったとき、目と目が合った。女はたしかに脩介を見た。黒い大きな瞳で。脩介も、女の視線にこたえるかのように、覗いてしまった。死へと駆けていく女の目を。 それから女はゆっくりと、下へ落ちていった。脩介は、女の姿が消えるまで身動きできなかった。  どれくらい経ったのか。コップの氷がカランとなった。その音ではっと我に帰ると、急いで窓に近寄り、思い切って開けてみた。初秋の冷たい風が吹きつけてくる。ベランダに出て下を覗いたが、暗くてよく見えなかった。 「そんな……」  脩介は呟いた。自殺だ。女が、マンションの屋上から飛び降りたのだ。 「なんで……」  よりによって、それを目撃してしまうとは。しかも目が合った。落ちる女の吸いこまれそうな瞳を思い出して、脩介は身震いした。  
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