落ちる女

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 ガラス一枚を隔てた向こうにいる、落ちる女から、目が離せない。  脩介と女は、反対だった。脩介は上を、女は下を向いている。そして二人の目と目の高さが同じになったとき、再び目が合った。落ちていく女の、深く黒い瞳が、脩介の茶色がかった瞳をとらえる。脩介と女は、ガラス越しに見つめ合った。  それは永遠とも思える一瞬だった。やがて女の瞳は脩介から逸れ、再び下へと落ちていく。続いて白いワンピースと、その中から伸びる細い青い足も。  そのうちゆっくりと、まずテレビの音が戻ってきた。小さな卓が、布団が、視界に現れ、世界が色を取り戻していく。 ようやく動けるようになり、ガラスから手を離し、窓を開けてベランダに出た。びゅうっと冷たい風が吹きつけてくる。手すりから身を乗り出し、下を覗きこむ。暗くてよく見えない。それもきのうと同じだった。 部屋に戻り、布団にどさりと身体を投げ出した。  見間違いじゃない。脩介は、震える記憶を励まして、女の端々まで思い出してみた。女はきのうと同じ顔で、同じ服を着ていた。白いフレアーワンピースの、ふわりとした広がりようまで。  きのうと同じ女だ。間違いなく。
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