落ちる女

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 マンションの窓の外を、二日連続で、同じ女が落ちていく。そのことが差している意味は一つだけ。 「ゆ……」  口の先から言葉が出そうになるのを、かろうじて止めた。口にしたら、それをたしかなものにしてしまいそうな気がした。 そうやって仰向けに寝転がりながら、しばらく天井を見上げていた。きのうよりは幾分ましだが、体の芯を、青くて冷たいものが駆け抜けていくような感覚は、簡単には抜けない。  目を瞑るのが怖い。瞼の裏の暗闇に、女が上から落ちてくる姿が浮かび上がってくるような気がした。  次の日。  脩介は、きのうと同じようにニュースを探してみたが、女の自殺の話はなかった。学校とバイトの一日を終えると、家に帰ってシャワーと夕食を済ませ、決意を込めてそのときを待った。 もちろん怖い。でも確かめたかった。もう、きのうや一昨日ほどは、自分が脅えていないのがわかった。  テレビをつけて、スマホを触りながら、そのときを待った。強いて時間を見ないようにしながら。  何かを感じた。青くて透明なものが、体の中をさっと駆け抜けていく感覚。スマホをいじる手が止まる。咄嗟に時間を確認した。〇時二十三分。
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